先日、「じげん」という会社を訪問した。
CGMとかをやってる気鋭のITベンチャーだが、前職で採用マネジャーをしていたときに採用した人が社長をしており、平尾丈くんという。28歳の青年社長だ。
エントランスに入ると全面鏡張りの怪しい景色で江戸川乱歩の世界を一瞬思い出した。サプライズのある演出。面白い会社である。
そこで1時間ばかり、平尾くんと人事責任者の方と、人事やら採用やらに関するよもやま話をした。
平尾くんは学生時代から会社をやってるような強烈なベンチャー野郎で、かなりエッジのきいた人物であった。実際自己紹介は「とがったナイフ、平尾丈です」といつも言ってるようなナイスガイであった。
こんなすごい人物が会社員なんて枠に適応できるのだろうかと、最初はびびりながら採用したのだが、内定者の間でも愛され、入社後も様々摩擦を(結果よい意味で)起こしながら、在籍は短い期間ながら(現社の役員として早々に出向したため)高い業績を上げてくれた。
そんな平尾くんも今は30人近い社員を抱える社長。エネルギーや志の強さは変わらないが、物腰は柔らかくなり、安心感を持った。自分は一介のサラリーマンに過ぎないのに僭越な言い方だが「成長したなぁ」と感じた。
採用をしているとこのようなことはとても多い。特にリクルートの採用をやっていたというのも大きい。かの会社は、巷で言われている通り、どんどん自分の道を歩むために卒業していく人がいるので、いろんな世界で活躍を見かける。
そういう人の活躍を見ると、(別に自分が育てたわけではないので本当は全然違うのだろうが、あえて例えて言うなら)「イチローの小学校時代の恩師」的な喜びを度々感じる。(僕はまだ超若造なので、そんなジジ臭いことを言っている暇はないのですが・・・もちろん自分自身も超頑張る所存です!)
まあ少なくともいろいろな縁を作ったことには間違いないので、この勝手な思い込みを何卒許してもらいたい。
また採用した人同士が結婚することもとても多い。あまりに多すぎて僕は結局なんの仕事をしているのかたまにわからなくなる。紹介料よこせ、とか思う(嘘)。
ある時など、絶対この組み合わせは「無い」と思ったので男女だが二人で出張を命じたら、そのうち結婚してしまったこともある(その事実を結婚式場で暴露され、人事担当役員に「お前は懲戒だ!」と言われました)。
ただ、実は一番うれしいのは、そういう個々人の活躍や結び付きではない(それもめちゃくちゃうれしいのですが)。
正直言うと、僕は(新卒)採用をする時に、良い「個」を集めようという意識ではなかった。
いや、もちろん個々の人が優秀であることは重要なことだが、自分の中ではそれよりも重視していた感覚がある。
それは、「良いチームかどうか」ということである。
4番バッターばかり集めても良いチームにはならない。一昔前の巨人がよい例だ。
アンパンマンとかドラえもんの登場キャラとかも、善人キャラばかりでは面白くない。バイキンマンやドキンちゃんがいるから、ストーリーは展開していく(そうでなければ死のような安定=停滞が続く)。
新卒の同期という「チーム」にもそういうことを求めた。アンパンマン、バイキンマン、食パンマン、カレーパンマン・・・会社の中で、同期の中でそれぞれの役割を想像して、内定者枠を埋める=チーム構成を考えていった。
中には平尾くんのように早々に飛び立つ者がいたって全く構わない。むしろ必要。同期の皆の理想的なペースメーカーやベンチマークになってくれる。
(無責任に聞こえるかもしれないが誤解を恐れず言うと)最初は適応に悩むような人も必要。組織の育成力やケアの風土を醸成してくれるし、そういう悩む人は克服したあと自らが良いリーダーやマネジャーになるものだ。
そうやって多様な人達を組み合わせを考えながら採用したつもり。
もちろんすべてがうまくいったわけではない。いろいろ迷惑もおかけしたと思う。
ただ、そうやって広く世の中から探し集めた人達が、有機的につながっていき、良いチームになっていると聞くと無上の喜びを感じる。
採用に関わった世代で、同期会があって大変盛り上がったとか、社内のこういう事業で重要な役割を演じあっているとか、お互いに誰それを良きライバルとして切磋琢磨しているとか聞くと、本当にうれしい。
僕の仕事上の目標は「個が活きる理想の組織」を作ることであるが、新卒採用同期はインフォーマルながらその対象の一つだと思う。
人は何十年も生き、成長し、変化していく。チームはもっと長生きかもしれない。
そういうものの縁結びに携われる採用という仕事は、息の長い喜びを噛み締められる仕事場であると思う。
極端に言えば、仕事というよりも「道楽」に近いほど・・・。
もちろん、それだけ長い間、自分がしたことの責任を問われつづけるということでもあり(このことを採用担当者間では「カルマ」と呼んでいた)、あまっちょろいものではないのも事実。胸が苦しくなることも多い。
しかし、喜びの方がはるかに大きい。
これからも、いろいろな人や組織の良い出会いを演出できたらと思う。