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公開:2025.05.24 最終更新:2025.05.28

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組織課題の原因特定から解決策まで完全ガイド

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 企業が成長し続けるためには、組織課題を正しく特定し、適切な解決策を実行する力が求められます。しかし、組織の課題は一見すると単純に見えるものの、実際にはさまざまな要因が絡み合い、表面的な対処では根本的な解決に至らないことが少なくありません。

 例えば、「離職率が高い」「中間管理職が育たない」「採用がうまくいかない」 などの問題が発生したとき、それらの現象だけを見て施策を考えてしまうと、的外れな解決策になってしまうこともあります。重要なのは、課題の本質を見極め、根本原因にアプローチすることです。

 本記事では、組織課題解決の原因特定から解決策の考え方までを解説します。

組織課題の基本理解

組織課題とは

 組織課題とは、組織が成長していく際に乗り越えていかなければならない問題のことです。例えば、「業績の低迷」「人材不足感がある」「社員が離職していく」「人材が育たない」などがあげられます。こうした組織課題は、放置すると社員のモチベーション低下を招き、エース社員の離職、生産性の低下によるさらなるモチベーションの低下など、悪い循環に陥ってしまいます。

 また、組織課題は時が経てば解決する課題でもありません。そのため、経営層や人事が「今の組織の課題は何か」を明確に示し、全社を挙げて取り組んでいく必要があります。

組織課題が発生する背景

 組織課題が発生する背景には、組織内部の変化と外部環境の変化の2要因があります。

組織内部の変化とは

 事業が軌道に乗ると、事業拡大に伴い人を採用し、組織規模が大きくなっていきます。創業間もない頃は社長の目の届く範囲でマネジメントができていたものの、組織規模の拡大(場合によっては膨張)により、次第にマネジメントの手が届かなくなります。その結果、多様な価値観を持つ社員が入り混じり、社員間の価値観のズレ、経営層とのコミュニケーション不足、縦割り組織化による情報共有の滞りなどが発生しやすくなります。

 よく「100人の壁」「300人の壁」などと表現されるように、組織は成長に伴い、様々な課題に直面します。これは人の成長と同じように「成長痛」として乗り越えていくべきプロセスの一部なのです。

外部環境の変化とは

 組織は常に外部環境と接しており、その変化に適応することが求められます。顧客のニーズの変化、競争環境の激化、物価や為替の変動、技術革新の加速、社会的価値観の変容など、あらゆる要因が組織の在り方に影響を与えます。

 特に近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展やAI技術の普及により、ビジネスモデルそのものの変革を迫られるケースも増えていたり、サステナビリティやSDGsの重要性の高まりにより、従来の経営方針では社会に選ばれにくくなっている場面も多くなっています。

 こうした外部変化に適応しきれないと、「頑張っているのに報われない」 という状況に陥りやすく、企業は業績低迷、競争力の低下、人材流出などのリスクに直面します。

組織課題が発生する原因

 組織が成長し外部環境が変化する中で、課題は 「環境要因」「構造的要因」「人的要因」 の3つの観点から生じます。前述のように、組織は成長痛を伴いながら変化し、外部環境の影響を受け続けますが、より適切な対策を講じるためには、具体的にどのような要素が組織課題を引き起こしているのかを明確にすることが大切です。

環境要因:「経営/事業/仕事」の成長痛

 市場や競争環境の変化は、組織に外部からの圧力をかけます。たとえば、顧客のニーズが高度化・多様化することで、従来のビジネスモデルでは対応しきれなくなることがあります。また、新規参入企業の増加やグローバル競争の激化により、これまでの競争優位性が失われることもあります。

 さらに、社会的な規制の強化やテクノロジーの進化によって、企業が求められる基準が引き上げられるケースも増えています。これらの環境変化に適応できなければ、組織の成長は停滞します。

構造的要因:「システム/マネジメント/制度」の成長痛

 組織が拡大するにつれ、役割や責任の境界が曖昧になることが多くなります。よく「一人課長」や「担当課長」などの役職を見かけますが、明確に定義されていないケースが多いのも事実です。

 また、成長初期の段階では、社員一人ひとりが広範な業務を柔軟に担っていたものの、組織が大きくなると、業務分担が明確にならず、「誰が何を決めるのか」が不明確になるケースが発生します。

 他にも、効率化のために設計した業務プロセスやルールが、新しい環境では足かせとなることもあります。たとえば、「これまでこうしてきたから」という過去の成功体験を理由に非効率なプロセスが温存されると、変化に対応するスピードが鈍り、組織全体のパフォーマンスが低下します。

 さらに、評価制度やキャリアパスの不透明さもモチベーション低下を引き起こします。自分の仕事が正当に評価されていないと感じると、「どれだけ頑張っても報われない」という心理が生まれ、成長意欲の低下や離職のリスクにつながります。

人的要因:「人/文化/風土」の成長痛

 組織が拡大することで、コミュニケーションの質が低下することがあります。創業当初は、社長や経営陣が直接社員と対話する機会が多く、意思決定も迅速に行えます。しかし、組織規模が大きくなると次第に情報共有が難しくなり、部門間に壁が生じ、「自身の仕事が組織全体の中でどのように機能しているのかが見えにくくなる」 という状況が発生します。これにより、社員の当事者意識が薄れ、組織に対する帰属意識の低下につながります。

 また、組織文化の変容も人的要因の一つです。組織がまだ小さいうちは、価値観や行動様式が自然と共有されやすいですが、大きくなると、新しく入ってきた社員の価値観と既存メンバーの価値観が必ずしも一致しなくなります。その結果、「組織としての一体感が薄れる」「組織の暗黙のルールが分かりにくくなる」 などの問題が発生します。特に、創業メンバーと後から入ったメンバーの間で価値観や仕事の進め方に対する考え方が食い違うと、「どこまで自由にやっていいのか」「何が許容されるのか」 といった基準が曖昧になり、摩擦が生まれやすくなります。

 組織課題は、環境の変化、組織の構造、そしてそこで働く人々の相互作用 によって発生します。環境要因によって外部からのプレッシャーが高まり、構造的要因によって組織の柔軟性が失われ、人的要因によって組織内の結束力が弱まる。これらが同時に進行すると、課題はさらに深刻化します。

成長に伴う課題の発生

 先ほども述べたように、組織課題は人の成長と同じように「成長痛」として乗り越えていくべきプロセスの一部です。組織の各規模毎に起こりうる組織課題について組織の成長過程を5段階に分類したグレイナーモデルを用いて解説します。

組織成長の第一段階:背中でマネジメント

 組織の第一段階は、創業者のリーダーシップが強く、リアルタイムで直接的な指導が可能な規模の組織です。経営層も市場や顧客に直接対峙する機会が多く、細かなルールを設けずとも大きな課題がなく組織運営ができます。

 しかし、組織が20人、30人規模に拡大すると、創業者の目が行き届かなくなり、結果として、社員ごとに行動のばらつきが生じ、統制が取れなくなるという組織課題が生じます。

 そこで、中間管理職を設置し、経営者の意図を正しく伝え組織の統制を強化する「行動」によるマネジメントを導入することで組織課題の解決を図ります。

組織成長の第二段階:行動でマネジメント

 組織の第二段階は、中間管理職を通じて社員の行動を標準化し、組織の統制を図ります。 しかし、60人、70人と組織が拡大すると、規定した「行動」の目的が失われ、社員が思考停止に陥るという課題が発生します。

 そこで、プロセスの自由度を高め、社員が自ら考え行動できる環境を整えるため、「結果」に基づくマネジメントへ移行します。

組織成長の第三段階:結果でマネジメント

 組織の第三段階は、組織の方向性を示しながら、結果を重視した評価やインセンティブを導入し、社員の主体性を引き出します。第二段階における規定された行動のみでは、次第に周囲と結果に差が出始めるため、規定された行動以外を自主的に考えることが促進されます。

 しかし、100人規模の組織へ拡大すると、社員が自分の成果にのみ意識を向けるようになり、組織全体の最適化が失われるという課題が発生します。部門間の連携が希薄になり、各部門が自己の目標達成を優先することで、全社的な戦略が崩れてしまうのです。

 そこで、組織全体の整合性を保つため、各部門に計画を提出させ、資源の横断的な配分を行う「計画によるマネジメント」へ移行します。

組織成長の第四段階:計画でマネジメント

 組織の第四段階は、「計画」を通じて企業全体のポートフォリオ最適化を図ります。各部門の目標を全社戦略のもと整合させ、経営層がリソースの配分を管理することで組織全体のバランスを保ちます。

 しかし、300人以上の組織へ拡大すると、「計画」が目的化し「予算を減らされないために」が意思決定の判断基準となってしまう官僚化の課題が発生します。

 そこで、方向性は示しつつも、細かい管理に依存せず、社員の自律性と創意工夫を促す「文化」によるマネジメントへ移行します。

組織成長の第五段階:文化でマネジメント

 組織の第五段階は、強い組織文化を確立することで、組織の方向性を維持しつつ、社員の自発性を引き出すことを目指します。計画やルールではなく、組織の価値観やビジョンに基づいて意思決定が行われるため、組織の一体感が高まり、変化にも柔軟に対応しやすくなります。

 しかし、この段階に入っても組織課題が完全になくなることはありません。例えば、組織文化が固定化されてしまうことで、新しい価値観や変化を取り入れにくくなる「組織の硬直化」や、暗黙の文化の増加による新規メンバーの定着の難化などがあります。

よくある組織課題

 企業が成長を続ける中で、組織課題は常に変化し、解決すべきテーマも多様化しています。特に、人材の採用・定着・育成 に関する課題は、どの企業においても重要な経営テーマの一つです。ここでは、多くの企業が直面している代表的な組織課題を取り上げ、それぞれの背景や影響について解説します。

離職率が高い

 離職率の高さは、多くの企業の悩みの種です。重要な経営資源である「人」の流出は、単に事業活動が滞るだけではありません。経験を積み、成果を上げている社員が流出すると、生産性の低下だけでなく、ナレッジの喪失や育成力の低下を招くこともあり、企業の競争力を著しく損なうことになります。

採用のミスマッチ

 離職率の高さと並行して、多くの企業が苦慮しているのが、自社にマッチした人材の確保です。2024年に公表されたリクルートワークスの調査によると、2025年大学卒業予定者の有効求人倍率は1.75倍で、コロナ禍前の水準に戻っています。これは「売り手市場」を意味し、企業の求人数が就職希望者の1.75倍に達している事を示します。

 このように人材獲得競争が激化する一方で、入社後3年以内の離職率は依然として約3割となっています。苦労して採用した人材が十分に活躍する前に離職してしまうことは、多くの企業とって大きな課題となっています。

中間管理職が育たない

 採用の次に組織の課題として多く上がるのが、人材育成、とりわけ中間管理職の育成です。Z世代の特徴の一つとして、多様な価値観を尊重する傾向が強く、画一的な育成手法が通用しにくくなってきています。そのため、従来の「自分が育ってきた手法」では管理職が求められる役割を果たしにくくなっています。

 また、育成側だけに責任がある課題でもなく、育成される側の意識変化も課題となっています。日本能率協会マネジメントセンターの調査によると、一般社員の7割以上が「管理職にはなりたくない」と回答しています。この結果からも、管理職の役割や魅力を適切に伝え、キャリアパスの一環として育成する仕組みが求められていることが分かります。

 さらに、外部環境の変化が激しさを増す中で、管理職は外部環境に適応していく方針を立てなければなりません。その傍らで、個々のメンバーの成長を促す必要があり、育成の負担が増しているのが現状です。

育成の仕組み化不足

 近年増えてきている組織課題の一つが、育成の仕組み化不足です。その背景には、以下のような要因が挙げられます。

  • リモートワークの増加によるコミュニケーションの希薄化
  • リモートワークの増加による「背中を見て学ぶ」機会の減少
  • 採用難による人材不足を原因とした、育成に割くリソース不足

 これらの要因が重なることで、属人的なOJTに頼る育成が限界を迎え、社員の成長速度にばらつきを生じさせてしまいます。また、明確な育成基準がないため、何をもって「一人前」とするのかが曖昧になり、指導する側・される側双方にとって負担が大きくなっている ことも課題の一つです。

組織課題の特定

 組織が直面する課題を適切に特定することは、効果的な施策を打ち出すための第一歩です。しかし、課題を表面的に捉えるだけでは、場当たり的な対応に終始してしまい、根本的な解決にはつながりません。

 組織課題の特定には、多角的な視点からの情報収集と、因果関係を見極める分析・議論が欠かせません。ここでは、組織課題を特定するためのアプローチを紹介します。

情報収集

 組織課題を正しく特定するためには、「どのような視点で情報を集めるか」が重要です。「定性的/定量的」「経営目線/現場目線」 の4象限で情報を整理することで、組織の実態をより立体的に捉え、適切な課題設定が可能になります。

経営層へのインタビュー(定性×経営目線)

 経営層へのインタビューを通じて、組織の全体像や将来のビジョンと現状とのギャップを把握できます。経営層は短期的な業務課題にとどまらず、中長期的な戦略や組織の方向性を考えているため、現場では見えにくい「組織の本質的な課題」を浮き彫りにするうえで、重要な情報源となります。

活躍社員へのインタビュー(定性×現場目線)

 活躍社員の視点からは、経営層には見えにくい「現場の実態」や「日々の業務で直面している課題」を知ることができます。また、組織が持続的に成長するためには、活躍している社員が長く働き、組織に貢献し続けられる環境を整えることが欠かせません。彼らが感じる「仕事のやりがい」や「モチベーションを下げる要因」を明らかにすることで、活躍している社員が貢献し続けられる組織を実現するための具体的な施策を検討しやすくなります。

 他にも、活躍社員の意見は、組織の成長に貢献する人材の共通点を把握し、採用や育成の指針に活用することもできます。

アンケート(定量×経営目線・現場目線)

 社員全体へのアンケートを実施することで、組織の現状を定量的に可視化し、課題の傾向を効率的に把握することができます。特に、経営層だけでなく、現場の声を幅広く集めることで、「組織の理想」と「実態」のギャップを明らかにしやすくなります。

 また、経営層向けにアンケートを実施することで、経営陣の間で認識の違いがないかを確認することも重要です。

 なお、収集した定量データは、明らかにしたいことによって分析の手法も変わってきます。どのような目的でアンケートを活用するのか、を明確にしつつ実施しましょう。

  • 全社員の傾向を把握する(意識調査、満足度調査など)
  • 経営層の認識の違いを発見する(組織の課題や方向性に対する考え方の差)
  • インタビューでは見えにくい数値データを得る(エンゲージメントスコアなど)

適性検査データの収集(定量×現場目線)

 組織課題の解決策には、絶対的な正解はありません。組織の状況や風土に合わせた最適解を検討することが重要です。そのためには、自社がどのような社員で構成されているのかを把握する必要があります。

 社員の特性を把握していないと、せっかく議論してひねり出した解決策が、上滑りしてしまうことにもなりかねません。例えば、他者と交流するよりも一人でじっくり過ごすことを好む社員が多い組織に、コミュニケーション向上施策を実施しても、誰も喜ばない、ということもありうるのです。

 そこで適性検査データを活用することで、現場にどのような性格特性を持つ人材が多いのか、活躍している人材の共通点は何かを明確にすることが必要です。

 また、適性検査データは、以下のような施策につなげることもできます。

  • 上司部下の相性を明確にし、マネジメント方針やコミュニケーション面の改善
  • 自社にフィットしやすい人材傾向の把握
  • 業務との相性を把握し、異動時の人材配置や効果的なサポート施策の検討

分析と議論

 情報収集が完了したら、データを分析し、組織課題の本質を見極める議論を行います。

 この段階で重要なのは、課題の因果関係を整理し、本当に解決すべき根本原因を明らかにすることです。一見すると解決すべき課題に見えるものでも、表面的な問題に過ぎず、別の要因が本質的な原因である可能性があります。例えば、ある課題を解決する施策は、組織の良い点を阻害してしまったりすることもあります。

 組織の良い文化を損なわないように注意しながら、解決すべき原因は何なのか、顕在化している課題は本当に解決すべき課題なのか、などを何度も議論を重ねることが重要です。

課題の特定と施策の方向性(理想の組織像や人事ポリシー)の検討

 議論の結果、解決すべき課題が特定できたら、次に重要なのは、組織としてどのような方針のもとで施策を実行していくかを決めることです。個別の施策をバラバラに実施すると、施策同士が相反し、効果を打ち消し合ってしまうことがあります。そこで、まずは「目指す組織像」や「人事ポリシー」を明確にし、その方針に沿った形で施策を進めることが重要です。

 「人事ポリシー」とは、「人材マネジメントポリシー」とも言い、様々な人事マネジメント施策を検討するうえでの羅針盤です。種々の課題に対する解決策が、バラバラの施策になるのではなく、一貫した施策になるように、例えば「安心」や「平等」、「成長」といったキーワードを定めます。ある施策を検討した際に、果たしてこの施策は「安心」を与える施策だろうか、「平等」に反しない施策だろうか、「成長」を促す施策だろうか、と考える基準があることで一貫した施策を実現しやすくなります。

【施策の整合性をとるためのポイント】

  • まず 「目指す理想の組織像」や「人事ポリシー」を明確にする
  • 各施策が「理想の組織像」に向かう施策となっているか、「人事ポリシー」と一致しているか確認する
  • 緊急度や重要度を掛け合わせて検討し、優先順位を明確にする

 これにより、施策の効果を最大化し、組織課題の本質的な解決へとつなげることができます。

具体的な解決策の検討

 組織課題の原因を特定し、人事ポリシーを明確にしたら、次に重要なのは「どのように解決するか」です。解決策の検討では、短期的な対処だけでなく、中長期的に持続可能な仕組みを構築することも視野に入れる必要があります。

 また、組織全体に影響を及ぼす施策であるほど、関係者の納得感を得ながら進めるプロセスが重要になります。トップダウンで決定された施策は、現場の理解が得られず形骸化しやすく、一方でボトムアップのみのアプローチでは、経営戦略と乖離した短期的な施策になりかねません。

 ここでは、効果的な解決策を導き出すための方法について紹介します。

検討方法①:経営層で議論

 経営層や人事部門を中心としたメンバーで解決策を検討します。組織全体を意識し、中長期的な視点を持つメンバーで議論をするため、より本質的な課題の解決を目指せるという利点があります。ただし、経営層の視点に偏ると、現場での緊急度の高い課題の優先度が低く設定されてしまう可能性があります。特に、日々の業務に直結する課題(業務負担の偏りや社内コミュニケーションの問題など)が軽視されると、施策の実効性が低くなるリスクがあるため、慎重なバランス調整が必要です。

検討方法②:活躍社員を巻き込んで議論

 経営層だけでなく、現場の社員を巻き込みながら解決策を検討する方法です。実際の業務に携わる社員の意見を取り入れることで、現場感覚に即した施策を設計しやすくなり、施策の実効性が高まるという利点があります。また、活躍社員が議論に参加することで、経営層の視点や意思決定のプロセスを学ぶ機会になり、次世代リーダーの育成にもつながります。

 ただし、経営的な視点が不足すると、場当たり的な施策になってしまう可能性があるため、戦略的な観点を持ったファシリテーションが重要です。

実行

 具体的な解決策を決定したら、次に重要なのは 「どのように実行するか」 です。施策を単に導入するのではなく、組織の中に定着させ、成果を生み出せる形にすることが求められます。

 実行の進め方は、組織を変化させるためのフレームワークとして良く知られているジョン・コッターの「チェンジマネジメントの8段階プロセス」 に沿うことがおすすめです。チェンジマネジメントの8段階プロセスとは、組織変革を成功させるための手順を体系化したもので、新施策を導入する際についつい忘れてしまいがちな組織を構成する従業員の”心理的側面”も考慮したプロセスが盛り込まれている点が特徴です。

  例えば、最初のステップは「危機意識を高める」となっています。これは、変革しなければならない、という当事者意識を生み出すことが変革を成功に導くために必要ということです。

 このプロセスを意識しながら解決策を実行し、組織全体での施策の定着を図ることが変革を成功に導きます。

 

モニタリング

 施策を実行した後は、その効果を測定し、必要に応じて改善を加えることが不可欠です。

施策が本当に機能しているのか、また新たな課題が発生していないかをチェックし、PDCAサイクルを回しながら改善を進める必要があります。

【モニタリングの進め方】

  1. KPI・指標を定め、定期的に測定する

 例:「離職率の変化」「エンゲージメントスコア」「育成プログラムの満足度」

2. 現場のフィードバックを収集する

 例:アンケートや1on1ミーティングを活用し収集する

3. 施策の修正・強化を行う

 施策を実行したら終わりではなく、継続的にモニタリングしながら、組織の状況に応じた改善を続けることが重要です。

組織課題の特定~解決策の検討における注意点

 組織課題の特定から解決策の検討・実行に至るまでのプロセスでは、場当たり的な施策にならないよう、慎重に検討することが重要です。特に、以下の3つの点に留意することで、施策の効果を最大化し、組織全体の整合性を保つことができます。

その施策は一貫性のあるものか

 施策を実行する際に最も重要なのは、解決策検討の前に設定した人事ポリシーと整合性が取れているかという点です。個別の施策が良いものであっても、組織の方向性と合致していなければ、一時的な改善に留まり、長期的な組織の成長にはつながらない可能性が高いため、注意が必要です。

【チェックポイント】

  • 理想の組織像・人事ポリシーに沿った施策になっているか?
  • 既存の制度やルールと矛盾がないか?(既存の制度がそもそも人事ポリシーに反している場合、制度の見直しや改善が必要です)
  • 他の施策との整合性が取れているか?(施策同士が相殺しないか?)

得られるものと失うものの両方を考慮出来ているか

 どのような施策にも メリットとデメリットが存在します。施策の効果だけを期待しすぎるのではなく、「何を得られるのか」と同時に「何を失うのか」も慎重に検討することが必要です。「何を守り、何を変えるのか」を明確にしながら施策を設計することが重要です。

【チェックポイント】

  • 施策の導入によって、何が改善されるのか?
  • 施策を実施することで、従来の強みが損なわれる可能性はないか?
  • 副作用や想定外のリスクはあるか?

実行可能性を考慮出来ているか

 優れた施策を立案しても、実行が難しければ意味がありません。施策が組織の現状に適しているか、また実際に運用できるのかを検討し、実現可能な形に落とし込むことが求められます。施策の実行時には、「実施後にどのようなプロセスを踏むのか」まで設計しておくとスムーズに実行ができます。

【チェックポイント】

  • 施策の実行に必要なリソース(人員・予算・時間)は確保できるか?
  • 現場に無理なく導入できるか?
  • 施策を定着させるための運用フローが明確か?

組織課題を整理するうえで参考になるフレームワーク

 組織課題を整理し、適切な解決策を導き出すためには、体系的なフレームワークを活用することが有効です。ここでは、組織の現状分析や施策検討に役立つ4つのフレームワークを紹介します。

7S

 マッキンゼーが提唱した 「7S」のフレームワーク は、組織を ハード面(構造的要素)とソフト面(文化的要素) の2つの観点で整理する手法です。

【ハード面の3S】

  • 戦略(Strategy):事業戦略や経営の方針
  • 構造(Structure):組織構造や形態
  • 仕組み(System):組織内の制度や仕組み

【ソフト面の4S】

  • 人材(Staff):社員
  • 経営スタイル(Style):組織の風土や方針
  • 価値観(Shared value):ミッション・ビジョンや会社としての方向性
  • スキル(Skill):組織としてのスキルや技術

 これらの7つのSを整理しながら、バランスよく改善していくことで、適切な課題解決を導きやすくなります。

SECIモデル

 SECI(セキ)モデルは、組織内の暗黙知を形式知化し、知識を共有・活用するためのプロセスを示したフレームワークです。特に、ナレッジマネジメントや組織学習の強化に有効です。

【SECIモデルの4つのプロセス】

  • 共同化プロセス:経験を通じて、暗黙知を共有(例:OJT、対話、観察学習)
  • 表出化プロセス:暗黙知を言語化・可視化(例:マニュアル作成、ナレッジ共有)
  • 結合化プロセス:形式知を組み合わせ、新しい知識を創出(例:データ分析、ノウハウの整理)
  • 内面化プロセス: 形式知を実践し、新たな暗黙知として蓄積(例:実務での応用、経験を積む)

まとめ

 本記事では、組織課題の原因特定から解決策の検討・実行までのプロセスを解説しました。

 「VUCAの時代」と呼ばれる変化の激しい現代において、どのような組織であっても課題は常に発生します。大切なのは、その場しのぎの対処ではなく、課題の本質を見極め、持続可能な解決策を講じることです。

 本記事が、組織の健全な成長を支えるヒントとなり、より強く柔軟な組織づくりの一助になれば幸いです。

組織課題を特定したい方は人材研究所の「人事コンサルティング」サービスをご検討ください。

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