
ポテンシャル採用は、労働人口の減少や採用競争の激化を背景に、多くの企業が注目している採用手法です。即戦力採用と異なり、候補者の潜在能力や成長の可能性に重点を置くことで、新たな人材の確保が可能になります。特に、第二新卒や未経験転職者など、従来の採用市場では見逃されがちな人材にアプローチできる点が大きなメリットです。
一方で、育成コストやミスマッチリスク、早期離職の可能性などのデメリットもあるため、企業側は適切な育成体制やフォローアップの仕組みを整えることが求められます。ポテンシャル採用を成功させるためには、採用プロセスの工夫や社内の受け入れ体制の強化が不可欠です。
今後、さらに採用市場が厳しくなることが予想される中で、ポテンシャル採用は企業の成長戦略として重要な役割を果たす可能性があります。各企業が自社の状況に応じた最適な採用手法を選択し、長期的な視点で人材を育成していくことが求められるでしょう。
ポテンシャル採用とは
ポテンシャル採用とは、「顕在的な実績を持たない」候補者を、本人の人柄や素養など潜在的な能力で評価をし、採用を行う手法です。即戦力となるスキルや経験を持った人材ではなく、中長期的に活躍が期待できるポテンシャルを持った人材の獲得を目的とします。
ポテンシャル採用の定義
ポテンシャル採用は、候補者の現在のスキルや経験ではなく、成長意欲や学習能力、適応力、リーダーシップなどの潜在的な能力を重視する採用手法です。中途採用、キャリア採用のように即戦力を求めるのではなく、将来的な活躍や自社のカルチャーとの適性を見込み、長期的な視点で人材を採用します。特に新卒や第二新卒を対象とすることが多く、社会人経験が浅い段階でも、入社後の育成を前提とし、今後の成長が期待できる人材を見極めるのが特徴です。
新卒採用や中途採用との違い
新卒採用や中途採用とポテンシャル採用は、採用の目的や対象となる人材の条件に違いがあります。中途採用は、即戦力となる人材を確保するための採用手法であり、企業が求める職種やポジションに対して、すでに実務経験や専門スキルを持っている人材が対象となります。一方、ポテンシャル採用では、必ずしも職務経験やスキルが十分でなくても、成長の可能性や学習意欲を評価し、長期的な活躍を見込んで採用を行います。この点において、中途採用とは大きく異なります。
また、新卒採用は主に大学生や専門学生など、これから社会に出る学生を対象とする採用活動ですが、ポテンシャル採用は新卒だけでなく、第二新卒や若手の転職者など、より幅広い層を対象とする点が特徴です。そのため、新卒採用と似た部分はあるものの、対象とする範囲の広さや選考基準の柔軟性に違いがあると言えるでしょう。特に明確な年齢制限は定められていませんが、新卒採用では対象外とされる大学卒業後3年以上が経っている人材や、一度就職を経験したりフリーランスとして働いていたりした20代〜30代の若手人材も含まれます。
ポテンシャル採用が注目されている背景
ではなぜ今ポテンシャル採用が注目されているのでしょうか?
求人倍率の上昇による採用難
求人倍率は年々上昇し、企業の採用活動は厳しさを増しています。特に即戦力となる人材の確保は難しく、中途採用市場では売り手優位の状況が続いています。その結果、企業が求めるスキルや経験を持つ人材を確保することが困難になり、採用競争が激化しています。
こうした課題を背景に、ポテンシャル採用への注目が高まっています。即戦力を確保するのが難しい状況の中で、企業は将来性のある若手人材を採用し、社内で育成することで戦力化を目指しています。特に、第二新卒や海外大学卒業者、ワーキングホリデー経験者など、多様な経歴を持つ人材を採用する手段としても有効であり、従来の新卒採用や中途採用では見逃されがちなブルーオーシャン(不戦市場)にもアプローチできるのが特徴です。
(出典:リクルートワークス研究所「第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」
採用コストの増加
近年、採用市場の競争が激化し、企業の採用コストは上昇し続けています。特に即戦力人材の獲得が難しくなり、求人広告や人材紹介サービスの利用コストが増加するなど、従来の採用手法では負担が大きくなっています。
さらに、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用、SNS採用など、多様な採用手法が求められるようになり、それぞれのチャネルに対応するための運用コストや工数も増加しています。加えて、求職者の選択肢が広がったことで母集団形成が難しくなり、企業ブランディングや候補者フォローの強化など、新たな施策が必要になっています。内定辞退や早期離職のリスクも高まっており、オンボーディングの充実や定着支援にかかるコストも無視できません。
特に人材獲得競争が熾烈なIT業界などでは、エンジニア職を採用するのに、中途採用であれば膨大な採用コストをかけて1人採れるか採れないか、という難しい状況になっています。そこで、新卒の文系学生をエンジニア職として大量に採用し、一から育てていく、という企業も実際に存在します。
ポテンシャル採用のメリット・デメリット
ポテンシャル採用にはメリットとデメリットがあります。それぞれを考えたうえで、採用手法として取り入れていくのが良いでしょう。
ポテンシャル採用のメリット
まずはポテンシャル採用のメリットを見てみましょう。
新卒採用に比べ社会人マナーなどの育成コストが少ない
採用対象が第二新卒や20代〜30代の若手の転職者の場合、新卒採用での採用対象である全く社会人経験のない学生よりも、基本的なビジネスマナーや事務スキルなどを既に習得しています。そのため、社会人としての基礎的な研修を実施する必要性が低いため、育成コストを抑えることができるでしょう。
即戦力採用重視と比べ組織が若返る
ポテンシャル採用を導入することで、若手人材の採用が進み、組織全体の年齢構成がバランスよく調整されます。即戦力採用に依存すると、どうしても経験豊富な人材を求めるため、組織の高齢化が進み、新しい価値観や技術への適応が難しくなることがあります。一方で、ポテンシャルのある若手を積極的に採用することで、組織の活性化につながり、環境の変化にも柔軟に対応できるようになります。若手社員が増えることで、多様性のある組織づくりが進み、新しいアイデアや価値観が生まれやすくなります。また、企業のノウハウを早い段階から次世代に受け継ぐことができ、リーダー候補として育成することも可能になります。このように、ポテンシャル採用を活用することで、単なる人材補充ではなく、将来を見据えた組織づくりが可能になります。
応募数増を見込める
ポテンシャル採用を導入することで、従来の即戦力採用に比べて応募数の増加が期待できます。即戦力採用では、特定の経験やスキルを持つ人材に限定されるため、応募者層が狭くなりがちです。一方で、ポテンシャル採用は職務経験や専門スキルを厳密に問わないため、第二新卒や異業種転職希望者、海外経験者など、より幅広い層からの応募が集まりやすくなります。
また、特定の業界や職種に限定されない採用活動を展開することで、企業の採用ブランディングにもつながります。「未経験でもチャレンジできる」「成長できる環境がある」といったメッセージを発信することで、応募のハードルが下がり、多様なバックグラウンドを持つ人材からの関心を集めやすくなります。
ポテンシャル採用のデメリット
ポテンシャル採用にもデメリットがあります。以下の点を認識したうえでポテンシャル採用の導入を検討しましょう。
即戦力採用に比べ育成コストがかかる
ポテンシャル採用では、候補者の将来性を重視するため、即戦力採用と比べて実務面での育成にかかるコストが増加します。候補者は基本的なビジネスマナーを持っていることが多いものの、実務経験が不足しているため、業務に必要なスキルや知識をゼロから習得しなければならないケースが多いのです。したがって、早期に戦力化を実現するためには、育成計画の立案やメンター制度の導入といった効率的な教育体制が欠かせません。育成にかかる時間とコストを十分に考慮し、長期的な視点で人材を育てる姿勢が大切です。
見極めが難しい
ポテンシャル採用を進める際の大きな課題の一つは、「ポテンシャル」の定義が曖昧になりやすい点です。「ポテンシャル」と言っても、人によってその定義は論理的思考力やリーダーシップ、柔軟な問題解決能力など様々です。自社が求める能力や人物像が明確でない場合、面接時に求職者の本質を見極めることが難しくなり、入社後にミスマッチを招く可能性があります。また、面接官の質問スキルや深掘りの技術も必要です。求職者が持つ潜在的な能力を引き出し、具体的なエピソードを通してその能力を評価することが、ポテンシャル採用の成功には欠かせません。
組織の一体感が損なわれる可能性がある
ポテンシャル採用では、新卒採用と異なり、経歴やバックグラウンドが多様な人材が集まります。これにより、異なる価値観や仕事の進め方が持ち込まれ、チームの多様性が生まれる一方で、組織としての一体感が損なわれる可能性もあります。特に、新卒採用のように一斉入社で研修を受ける環境とは異なり、それぞれが異なるタイミングで入社するため、社内文化や共通認識を持ちにくく、コミュニケーションのズレが生じやすくなります。その結果、組織としての結束力が弱まり、連携が取りにくくなることも考えられます。
ポテンシャル採用を失敗しないために
では、ポテンシャル採用を失敗に終わらせないために、具体的に取り組むと良いことを紹介します。
自社にとってのポテンシャルの基準を作成する
ポテンシャル採用を成功させるためには、「自社が求めるポテンシャルとは何か」を明確に定義することが不可欠です。将来的な成長を期待する採用とはいえ、どのような資質や能力を持つ人材を求めているのかが曖昧なままでは、評価基準が揺らぎ、結果として自社にマッチする人材の確保が難しくなります。
では、ポテンシャルとは何を指すのでしょうか?一般的には「潜在的な能力」と解釈されますが、企業ごとに求める資質は異なります。例えば、論理的な思考力、周囲を巻き込むリーダーシップ、新しいアイデアを生み出す創造力など、求める「ポテンシャル」は様々です。したがって、企業の方向性や文化に合致する要素を具体的に設定することが大切です。
社員の適性検査から分析する
自社にとって最適なポテンシャルの基準を設定するには、適性検査を活用し、優秀な社員に共通する資質や能力を客観的に把握した上で、採用基準に反映させることが有効です。
まず、現在の組織内で成果を上げている社員の適性検査データを収集・分析し、どのような思考特性や行動特性が成功に結びついているのかを明らかにします。例えば、リーダーシップを発揮している社員が高い「意思決定力」や「対人影響力」を持っているのか、また、新しいアイデアを生み出す社員に「柔軟な思考力」や「好奇心」が共通しているのかなどを分析します。
このデータをもとに、求めるポテンシャルの要素を具体的な基準として整理し、採用プロセスに組み込むことで、より精度の高いポテンシャル採用が可能になります。また、適性検査を活用することで、面接官の主観に依存しすぎることなく、候補者の潜在能力を公平に評価する仕組みを構築できるのも大きなメリットです。
さらに、分析手法として統計を活用すると、基準設定に参考となる情報を多面的に得ることができます。以下に統計手法の例をいくつかご紹介します。
クラスター分析
社員の適性検査データをもとにグループ分けを行い、どのような特性を持つ人が組織内で成果を上げているのかを分析できます。たとえば、活躍している社員のクラスターを特定し、特徴的な能力や資質を抽出することで、求めるポテンシャルの定義がより具体化されます。
T検定
活躍している社員とその他の社員の間で、特定の能力に統計的に有意な差があるかを検証できます。例えば、「問題解決力」のスコアが高い社員ほど業績評価が高い場合、その能力が成功の重要な要素である可能性が示されます。
回帰分析
「採用後に活躍する可能性が高い人材を選びたい」「管理職として成功する可能性が高い人を選抜したい」といった場面で活用できます。例えば、適性検査の結果(「外向性」「協調性」「楽観性」など)と活躍指標(営業成績など)の関係を回帰分析することで、特定の特性を持つ人がどの程度活躍するかを数値として推定することが可能になります。
このように、適性検査データの統計的分析を活用することで、自社が本当に求めるポテンシャルを統計的に定義し、採用のミスマッチを防ぐことができます。
活躍している人にインタビューをする
ポテンシャルの基準を明確にするためには、すでに活躍している社員の経験や行動を詳しく分析することが重要です。そのための手法として、「BEI(Behavioral Event Interview)」と呼ばれるインタビュー手法が有効です。
BEIでは、単に本人の考えや価値観を聞くのではなく、過去に実際にどのような行動を取ったのかに焦点を当てます。例えば、「困難なプロジェクトをどのように乗り越えたか」「チーム内で対立があった際にどのように対応したか」など、具体的なエピソードを掘り下げることで、成功に必要なスキルや行動特性を明らかにします。
この方法を活用すれば、「優れた問題解決力を持つ社員はどのように考え、どんな行動を取るのか」「リーダーシップを発揮する社員はどのような場面でどんな影響を与えているのか」など、実際の行動データに基づいた分析が可能になります。その結果を適性検査や採用基準に反映させることで、より的確なポテンシャル採用を実現できます。
ポテンシャルを測る選考を設計
面接選考において重要なのは、「ポテンシャルを見抜くインタビュー」を設計することです。特に新卒採用では、候補者の過去実績が限られており、ポテンシャル採用では実績で評価を行うわけではないため、一見似たような経験に見えがちですが、本来は一人ひとり異なる能力や個性を持っています。そのため、面接の各ステージで焦点を絞り、段階的に評価していくことが重要です。
初期選考:能力のスクリーニング
初期選考では、「コミュニケーション力」や「論理的思考力」などの能力面を重点的に評価します。短時間の面接で人物評価まで行うのは難しいため、まずは「質問意図を理解し、分かりやすく答えられるか」といった形式的な部分に注目します。この段階で適切なスクリーニングを行うことで、より精度の高い選考が可能になります。
中期選考:パーソナリティの評価
初期選考を通過した候補者は、一定の能力を持っていると判断できます。ここでは、応募者の価値観や仕事への姿勢、チームでの協調性などを見極めます。形式ではなく話の中身に焦点を当てるため、ある程度経験豊富な面接官が担当すると効果的です。
最終選考:相対評価と優先順位付け
最終選考では、能力・パーソナリティの基準を満たした候補者の中から、特に優れた資質を持つ人を見極めることが求められます。そのため、具体的なエピソードを掘り下げながら、担当者の頭の中にある「人物データベース」と比較して評価します。最終面接の担当者は、「自社の社員と比べてどうか」「これまで会ってきた、似たような候補者の中でどうか」などなど、比較できるような人物のデータベースを沢山持っている経験豊富な方である必要があります。
また、ポテンシャルを見極めるためには、複眼的な評価が不可欠です。一人の面接官だけでなく、現場のリーダーや人事担当者など異なる視点を持つ人が関与することで、バイアスを減らし、公平な選考が可能になります。さらに、書類選考で落としすぎないことも重要です。人材要件が過度に絞り込まれると、採用できる候補者が限られ、成長の可能性がある優れた人材を逃すリスクがあります。履歴書だけではポテンシャルを判断しきれないため、できるだけ面接の機会を設け、成長の可能性を見極めるべきです。
このように、面接の各段階で適切なポイントにフォーカスし、複眼的な視点を取り入れることで、将来的に活躍できる人材を見極めることができます。
ポテンシャルを測る適性検査を活用する
面接だけで候補者のポテンシャルを見極めるのは難しく、面接官の主観やバイアスが影響することもあります。そこで有効なのが、適性検査の活用です。適性検査を導入することで、候補者の論理的思考力や情報処理能力、性格特性などを客観的に測定でき、より精度の高い選考が可能になります。
例えば、能力検査では、数的推理や言語理解の問題を通じて、思考の柔軟性や課題解決力を評価できます。特に、新卒採用では業務経験がないため、過去の実績ではなく、将来的な成長の伸びしろを見極める指標として有効です。また、性格検査を活用すれば、協調性や主体性、ストレス耐性といった行動特性を可視化でき、候補者が自社の文化や職種に適しているかを判断しやすくなります。
ただし、適性検査はあくまで補助的なツールであり、単独で合否を決めるものではありません。面接での印象と適性検査の結果にギャップがあれば、その背景を深掘りすることで、より多角的な判断ができます。面接と適性検査を組み合わせて活用することで、主観的な評価に頼ることなく、ポテンシャルの高い人材を公平かつ精度高く見極めることができるでしょう。
安易に落とさない方がいい人4選
面接では、候補者が持つ潜在的な能力を見抜くことが大切です。しかし、面接の場では一部の候補者がその本来の実力を十分に発揮できず、安易に落とされてしまうことがあります。特に「わかりにくい人」を見逃さず、丁寧に評価することが求められます。以下の4つのタイプの人には特に注意を払い、そのポテンシャルをしっかりと見極めることが重要です。
緊張してしまう人
面接の場で緊張し、うまく話せない人は「コミュニケーション能力が低い」と判断されがちです。しかし、面接というのは多くの人にとって異常な状況であり、緊張するのは当然です。特に志望度が高い候補者ほど、緊張が強くなる傾向があります。緊張しているだけでその人の実力を判断するのは早計です。このような候補者には、アイスブレーキングを行い、質問のペースを落とすなどして、落ち着いて話せる環境を提供することが大切です。緊張しやすい人は、実際の職場では落ち着いて行動できる可能性が高いので、その点を見極める必要があります。
率直な人
多くの学生は面接を自己PRの場と捉え、できるだけ自分を良く見せようとします。しかし、率直で自然体な人は時として目立ちすぎることがあります。例えば、「自分の弱み」をそのまま話したり、志望動機を「まだ御社のことをよくわかっていません」と正直に伝えるタイプの人です。このような人は、一見すると「KY」な印象を与えることがありますが、実際には「自分に自信があり、無理に良く見せようとはしない」「正直なタイプ」であることが多いです。このような候補者には、自己PRだけでなく、過去に行ってきた具体的な事例や成果を尋ね、客観的な事実をしっかりと評価することが重要です。率直な態度を評価できる企業は、こうした人材が職場においても素直で信頼できるチームメンバーになる可能性が高いです。
バランスのとれた人
優れた能力を持ちながらも、突出した特徴がなく「普通の人」と見なされがちなバランスの取れた人がいます。面接官は、目立つ特徴や強いコントラストを好む傾向があり、優れた能力が均等に発揮されている人を見逃してしまうことがあります。このようなタイプの候補者には、過去の経験や実績を深掘りし、具体的にどのような困難を乗り越えたのか、どのように成功を収めたのかを尋ねることが大切です。平凡に見える行動でも、その背後には非常に高いレベルの能力が隠れている場合があります。バランスよく優れた能力を持つ人は、組織にとって安定感と信頼性をもたらすため、慎重に評価するべきです。
控えめな人
面接では、しばしば「高い志」を語ることが重視されがちです。しかし、控えめで謙虚な態度を持つ人は、目立たないために見過ごされてしまうことがあります。たとえば、「まずは目の前の仕事に一生懸命取り組み、早く一人前になりたい」といった現実的で控えめな意欲を持つ人です。このタイプの候補者は、大きな野望を持っているわけではないかもしれませんが、日々の業務に対して真摯に取り組む姿勢が強い場合が多いです。実際には、このような人こそ、長期的に安定して高いパフォーマンスを発揮し続けることが多いです。その人の主観的な志や理想に注目するのではなく、過去にどのような成果を上げてきたかという客観的な事実に基づいて評価することが重要です。長期的に見たときに、控えめな人こそ信頼できるメンバーとして貢献する可能性が高いのです。
これらのタイプの候補者を安易に落とさず、適切に評価することで、企業にとって価値のある人材を見逃すことなく採用することができます。潜在能力を見抜くためには、面接での印象だけで判断せず、候補者の過去の行動や実績に焦点を当てて評価すると良いでしょう。
面接官を育成する
ポテンシャル採用では、候補者の可能性を正しく見極める力が面接官に求められます。そのためには、面接官のスキルを高めることが不可欠です。特に、初めて面接を担当する人には、事前のトレーニングを通じて評価基準や質問の仕方を習得してもらうことが重要です。講義形式で基礎知識を学ぶだけでなく、ロールプレイを取り入れて実践経験を積むことで、より的確な判断ができるようになります。
さらに、面接では無意識のうちに先入観が影響を与えることがあります。例えば、第一印象や話し方だけで能力を判断してしまうケースも少なくありません。こうした偏りを防ぐためには、自分がどのような要素に影響を受けやすいのかを認識することが大切です。面接官ごとにバイアス診断を実施し、結果をチームで共有することで、評価の公平性を保つことができます。
入社後の育成体制を整える
ポテンシャル採用では、入社後の育成が特に重要になります。即戦力の採用とは異なり、入社時点ではスキルや経験が十分でないことも多いため、計画的な成長支援が求められます。OJTやメンター制度、各種研修などの育成体制を整えることが効果的です。
OJTでは、実際の業務を通じてスキルを身につける機会を提供し、実践的な学びを促進します。しかし、OJTだけではフォローが行き届かない場面もあるため、定期的なメンター制度の活用が有効です。経験豊富な社員がメンターとして相談役となり、業務の進め方やキャリア形成についてのアドバイスを行うことで、心理的な安心感を与えながら成長を支援できます。
また、スキルや知識を体系的に学ぶ場として、各種研修を設けることも欠かせません。業務スキル向上を目的とした専門研修だけでなく、組織文化やビジョンを理解するための研修も重要です。特に、社内の価値観や方針を共有する場を設けることで、新入社員が組織の一員としての意識を持ちやすくなります。
さらに、組織にスムーズに馴染んでもらうために、早い段階からコミュニケーションの機会を提供し、職場の文化や価値観に触れることが大切です。特に、新しい環境での不安を軽減するために、上司や同僚との定期的な交流の場を設けることが効果的です。例えば、オリエンテーションやチームビルディングのイベントを通じて、組織内の関係構築を促進できます。また、異なる部署や職種のメンバーとのランチミーティングやカジュアルな対話の場を設けることも、柔軟にコミュニケーションを取るきっかけとなります。これにより、社員は自分の役割や期待されることを理解しやすくなり、組織への適応が円滑に進むでしょう。
こうした育成体制を社内で十分に理解し、上司や同僚が積極的に関わる文化を醸成することも大切です。育成は人事部門だけの役割ではなく、現場の協力があってこそ効果を発揮します。新入社員がスムーズに成長できる環境を整え組織全体で育成を支えることが、長期的に活躍する土壌を作り、ポテンシャル採用の成功につながるでしょう。
一般的にポテンシャルが高い人、とは
ポテンシャルの高い人の定義は企業や業界によって異なりますが、共通して見られる特徴も存在します。その中でも特に重要な3つの要素を紹介します。
自己認知の高さ
ポテンシャルの高い人は、自分の強みや弱みを正しく理解しています。これにより、どこを伸ばせばよいかを把握し、成長し続けることができます。また、チームの中で適切な役割を果たせるため、協働にも強い傾向があります。特に、自分の能力レベルを正しく評価できることは重要です。優秀な人ほど「まだまだ足りない」と考える傾向があり、努力を惜しまないため、さらに成長を続けます。
意味づけ力
どんな仕事にも価値を見出し、楽しみながら取り組める力を持つ人は、高いパフォーマンスを発揮します。同じ作業でも「単なる作業」と捉えるのか、「大きな目的の一部」と考えるのかで、成果に大きな違いが生まれます。ただし、この力が強すぎると、現状に満足しすぎて必要な変革を見逃すことがあります。改善の視点を持つことも重要です。
ベーシック・トラスト
「努力は報われる」「人は信じるに値する」といった前向きな信念を持つ人は、困難に直面しても折れにくく、粘り強く挑戦し続けます。この信頼感が、ストレス耐性やチャレンジ精神につながり、結果として成長を加速させます。一方で、過度な楽観はリスクを見誤る可能性もあるため、慎重さとのバランスが求められます。
以上の様に、ポテンシャルの高い人には、「自己認知の高さ」「意味づけ力」「ベーシック・トラスト」の3つの共通点が見られます。これらの特性を持つ人は、どんな環境でも成長し、成果を上げることができるのです。
ポテンシャルを見抜くための効果的な質問例
求職者のポテンシャルを正しく見極めるには、過去の具体的なエピソードを掘り下げて聞くことが重要です。以下の質問を活用することで、求職者の行動特性や思考特性をより客観的に評価できます。
「これまでの仕事や活動で最も大変だったことは何ですか?」
まず求職者が考える自らの強みや弱み、志望動機などは、主観的で抽象的な場合が多いため、過去のわかりやすいエピソードを聞くようにしましょう。その中でも、苦労した経験を聞くことで、その人の力が発揮されたときの行動特性がわかります。また、どのような状況を「大変」と感じるのかを知ることで、ストレス耐性や挑戦意欲を把握できます。
「その困難をどうやって乗り越えましたか?」
問題解決能力や、状況に応じた行動力が見えてきます。また、周囲との協力の有無や、自ら成長する意欲があるかどうかも判断できます。
「チームで協力して成果を出した経験を教えてください。」
協働における役割やリーダーシップの発揮度合いを確認できます。また、人間関係の構築力や、周囲との関わり方など、人と関わるときの行動特性や思考特性も見えてきます。
「長期間取り組んだプロジェクトや活動で、最もやりがいを感じたことは?」
継続的な努力をする力や、モチベーションの源泉を探ることができます。同時に、困難を乗り越える中での成長過程も把握できます。短期間の出来事よりも長期間にわたる出来事のほうが、異なる状況においても再現性のある特性だといえます。
「嫌だった仕事や活動をどのように工夫して取り組みましたか?」
好きなことを頑張れるのはある意味当然です。苦手なことにも前向きに取り組めるか、どのように工夫できるかを確認できます。適応力や柔軟性があるか、困難な状況でも学びを得ようとする姿勢があるかを見極めるのに役立ちます。仕事で同じような状況に陥ったときに発揮できる特性がわかるため、再現性のある情報を聞き出すことができます。
「あなたのチームではどのような雰囲気で仕事をしていましたか?」
組織の文化やチーム内でのコミュニケーションの取り方がわかります。求職者がどのような環境で力を発揮しやすいのかを判断する材料にもなります。他にも、候補者はリーダー、補佐、裏方などのうちどのような立場だったか、一緒にチームを組んだ人はどのようなひとだったか、上司や同僚との関係はどうだったか、取り組んだことの状況はどうだったか、などの質問も良いでしょう。
「そのプロジェクトではどのくらいの人数・予算で、そのくらいの期間行いましたか?」
エピソードの規模感を把握することで、求職者がどの程度の責任を担い、どれほどの難易度の課題に取り組んだかを評価できます。
「なぜその仕事に取り組もうと思ったのですか?」
求職者の価値観や動機を理解することで、自社の業務に対する適性や、長期的に活躍できるかどうかを見極められます。
これらの質問を通じて、求職者の行動特性、思考パターン、モチベーションの源泉を明らかにすることができます。特に、過去の具体的なエピソードを深掘りすることで、単なる主観的なアピールではなく、実際のポテンシャルを客観的に評価することが可能になります。
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