採用戦略とは
採用戦略とは「どのような人材を、どのようにして、いつまでに採用し、どのように定着させるかを決める」ことで、企業の事業戦略を支える重要な要素の一つです。採用戦略を立てずに採用を進めると、必要な人材を確保できないだけでなく、採用コストの無駄や早期離職のリスクも高まります。一方で、採用の目的やプロセスを明確にすれば、適切な人材の確保や定着がしやすくなり、事業成長を支える強い組織を築けるようになります。そのため、採用戦略は「採用して終わり」ではなく、採用後の育成・定着・活躍支援までを見据えた包括的な視点で設計していくことが求められます。
採用戦略の重要性について
- 組織は「目的」ではなく「手段」
経営学者アルフレッド・チャンドラーの「組織は戦略に従う」という考え方にあるように、組織は事業を実現する手段であり、事業への貢献によって組織の価値が生まれます。事業戦略の実行力としての「組織力」を高める必要があり、その基盤となる採用は極めて重要となってきます。
- 少子高齢化による人材獲得の難化
企業の組織は、組織構造・人事制度・人材の3要素から成り立っていますが、特に人材は限られた資源であり、他社との競争が最も激しい領域です。実際に、少子高齢化が加速し続けている中で、優秀な人材の確保が企業の成長を左右する重要な課題となっています。また、採用市場の競争は年々激化しており、人材を確保できなければ、事業の成長が停滞するだけでなく、企業の存続が危ぶまれます。
こうした環境の中で、将来にわたって企業を支える人材を見極め、既存の社員が長期的に活躍できるよう、 育成・評価・報酬などと連携し、戦略的に採用を進めることが大切です。
採用戦略を立てる3つのメリット
効果的な採用戦略を立てることは、採用を効率的に実施できるだけではなく、企業の成長に直結します。場当たり的な採用ではなく、明確な方針をもとに計画を立てることで、必要な人材を適切なタイミングで確保できるようになります。さらに、採用後の定着率やパフォーマンスの向上にもつながります。ここでは、採用戦略を立てることで得られる3つのメリットについて詳しく解説します。
採用コストを最適化できる
採用コストとは「採用活動全体を通して発生する費用」のことで、採用の計画から選考、入社に至るまでにかかる外部コスト(パンフレットやサイトの制作費・人材紹介会社への支払費用など外部へ払うコスト)と内部コスト(社内の人件費や内定者イベントの開催費用など内部で発生するコスト)の総額を指します。
採用戦略なしでは無駄なコストが発生しやすいため、限られた予算を最大限に活用するためにも戦略的な採用計画が必要不可欠です。例えば、採用ターゲットを明確にすることで、不要な広告費や人材紹介手数料を削減できたり、選考プロセスを見直して効率的な運用を行うことで、採用担当者の工数を削減し、内部コストの最適化にもつながります。
ミスマッチを防ぎ長期的な人材の定着
採用戦略を立てる際は、「人材ポートフォリオ」と「人材フロー」がポイントになります。「人材ポートフォリオ」とは組織が必要とする人材のレベルや構成のことで、現状と理想のギャップを把握し、施策を練っていきます。「人材フロー」とは組織内の人材の流れを管理し、採用・異動・退職までのプロセスを管理することです。
これらを組み合わせ、組織が求める人材像を明確にすることで、ターゲットに合った採用が可能になり、入社後のミスマッチや離職を防ぐことができます。さらに、「人材フロー」を意識することで、社員のキャリアパスが明確になり、エンゲージメント向上にもつながります。
経営戦略との整合性が図れる
「組織は戦略に従う」という言葉の通り、事業戦略が上手く遂行されるためには、その手段となる組織の実行力を高める必要があります。そこで重要になるのが「人事の一貫性」です。人事は一般的に「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の6機能に分けられます。人事に一貫性がないと各機能がそれぞれに最適化してしまい、全体としてのパフォーマンスが低下してしまいます。これを防ぐためには、人事施策が経営戦略と一致するように、担当者間でのローテーションや兼務、定期的な情報共有を行い、人事全体で一貫した採用戦略を策定し、実行することが求められます。
採用戦略 計画編
自社に適した優秀な人材を採用するためには、綿密な計画が欠かせません。採用計画をしっかり立てることで、必要な人材を適切なタイミングで確保し、採用の効率と成功率を高めることができます。また、採用後の定着や活躍を見据えた設計を行うことで、組織全体の成長にもつながります。
採用計画
採用戦略の重要性やメリットを踏まえ、実際の採用活動ではどのような計画を立て、どのように実行していくとよいのかを具体的に解説します。
採用計画を作成する
まず、採用計画とは要因計画(一定期間において必要な人員を確保するための計画)を実現するための手段であり、「採用」によってどの程度の人員を確保するかを決めることです。要因計画を達成するための手段としては、「採用」のほかに「育成」「配置転換」「外部委託」がありますが、これらの手段では必要な人員を確保できない場合や採用による獲得が望ましい人材がいる場合に、採用計画を立てる必要があります。
そのため、人事担当者は経営戦略や現場のニーズ、人件費など多角的な視点を踏まえ、いつまでに、どの部署に、どのような役割の人を何人採用するのかを明確にすることが求められます。さらに、短期的な採用目標だけでなく、中長期的な視点を持ち、社内の人材フローを考慮しながら計画を立てることで、人材ポートフォリオの実現につながります。
求める人物像を設定しペルソナ化
要員計画を立て、採用すべき人員が決まったら、人材ポートフォリオに基づいて「求める人物像」を設定します。その際、目的に応じたアプローチが重要であり、アプローチ方法としては「演繹的アプローチ」と「帰納法的アプローチ」の2つが挙げられます。
「演繹的アプローチ」では、自社の事業や組織を分析し、業務を適切に遂行するために必要な能力・志向・性格を推定し、求める人物像を設定していきます。一方で、「帰納法的アプローチ」では、現場で活躍している社員の特徴を分析し、共通する能力や性格を抽出して求める人物像を設定していきます。
求める人物像の詳細や具体的な設定方法については、**こちらのページ**で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。(別記事リンク案内)
最適な採用チームを生成する
採用に注力するためには、最適な採用チームを構成することが重要です。その際、採用チームの構成を企業全体の「人材ポートフォリオ」の雛形にすることがポイントとなります。例えば、受容性の高い採用担当者ばかりで構成されたチームでは、受容性の高い人員を優先的に採用してしまい、組織のバランスが偏ってしまいます。その結果、事業成長の実現が難しくなる可能性も高くなります。そのため、採用チームは「人材ポートフォリオ」と同じように、多様な能力・志向・性格を持つメンバーで構成していくことが、採用成功への鍵となります。
採用予算とリソース配分計画
採用活動を効果的に進めるためには、限られた予算とリソースを最適な配分にすることが重要です。先ほどもお伝えしたように、採用コストには「外部コスト(求人広告費や人材紹介手数料など)」と「内部コスト(選考にかかる工数、内定者フォローのための費用など)」があり、これらを洗い出した上で、施策ごとに適切な予算を割り当てる必要があります。 また、採用活動は、人事部門だけでなく、現場社員や経営層の関与も不可欠であり、社内の工数を考慮し、負担を分散させることが求められます。そのためには、事前に選考や面接に関わる担当者の稼働時間を確保するよう依頼したり、採用基準を明確にし、フォロー対象者を決めておくことで人的リソースを効果的に活用したりすることも大切です。さらに、採用施策の費用対効果を内定寄与率などで測定し、優先順位をつけることで、より効果的な採用戦略を立てることができます。
選考設計
選考プロセスの設計は、採用の成功を左右する重要な要素です。明確な選考基準を設定し、候補者の能力や適性を的確に評価することで、企業とマッチする人材を見極めることができます。
ペルソナから採用チャネルの選定
候補者と接触するためには、候補者集団を形成する必要があります。この、候補者集団にリーチする手段を「採用プロモーション」と呼び、「PULL型プロモーション(オーディション型)」と「PUSH型プロモーション(スカウト型)」に分けられます。
「PULL型プロモーション」とは、採用広告や説明会などを通じ、幅広い候補者へ情報を伝える方法です。一度で多数の候補者へ接触できるメリットがありますが、自社のファンが中心となりやすく、企業の知名度やブランド力に依存しがちです。そのため、合格率が低く、非効率になりがちです。
一方で「PUSH型プロモーション」とは、特定のターゲットに絞って、企業側からアプローチをかける方法です。具体的には、ダイレクトリクルーティング(スカウト型のサービス)の利用やリファラル採用、人材紹介会社の活用が挙げられます。一人ひとりを見極めて接触するため、効率はあまりよくありませんが、合格率が高くなる傾向があります。
それぞれのメリット・デメリットを理解し、求める人材の特徴や市場の状況を踏まえた上で、戦略的に手法を選択・実行していくことが求められます。
選考プロセス=各歩留り、ステップ、コンテンツ
採用においては、合理的な選考プロセスの設計が重要です。自社の採用戦略やターゲットとする人材に合わせて選考フローを最適化することで、候補者の負担を軽減し、辞退率を抑えながら、適切な人材を確保できます。 例えば、説明会参加を必須にしたり、手書きのエントリーシートを書かせたりした場合、候補者が離脱する可能性が高くなるため、求める人物を逃さないためにも、改めて選考プロセスを見直すことが大切です。
この選考プロセスは「歩留まり」「ステップ」「コンテンツ」で構成されています。
歩留まりとは「各選考プロセスにおいて候補者を次の選考ステップへ進める割合」のことを指し、具体的には各選考プロセス(エントリー・書類審査・筆記試験・面接・内定)における「内定率」「受験率」「書類通過率」「筆記通過率」「面接通過率」「途中辞退率」「内定辞退率」の7つの数値が歩留まりに該当します。
また、ステップとは、選考のプロセスのことで選考期間・選考回数・選考過程を指します。コンテンツとは、選考で使用するツールのことで筆記試験や面接などの手段を指します。
ここで重要なのは、採用の常識にとらわれずに「何のためにこのプロセスを設けるのか」を明確にした上で、自社に適した形の選考プロセスを設計することです。そのためにも、歩留まりや辞退率を継続的にモニタリングし、課題を特定しながら、適切な改善策を講じていくことが求められます。
参考までに、それぞれの「歩留まりの算出のしかたと目安」「それぞれのタイプの採用課題における選考プロセスの設計の仕方」を下記に記載しています。採用を行う際にご活用ください。
【歩留まりの算出のしかたと目安】
内定率=内定者÷受験者数
- 採用広告メディアや採用イベントなどのマス広告による候補者集団の形成の場合:約1~数%
- リクルーター、OB紹介などのネットワークによる候補者集団の場合:約10%
受験率=受験者数÷エントリー数
- 通常:約20~30%
- 人気企業:約40%
書類通過率=書類選考通過者数÷書類提出者
- 一般的な選考:約80%(下位2割を落とす)
- 厳し目の選考:約20%(上位2割を通す)
筆記通過率=筆記試験通過者数÷筆記試験受験者数
- 筆記試験の選考が厳しい企業:約10%
- できるだけ会う方針の企業:約50%
面接通過率=面接通過者数÷面接試験受験者数
- 通常面接:約30~40%
- グループ面接:約50%
途中辞退率=途中辞退社総数÷受験者数
- 一般的な企業:約20~30%
- 積極的な企業(途中辞退社へ再考するように架電するなど):約10%
内定辞退率=内定辞退社数÷内定者数
- 厳しい企業(第一志望の場合のみ内定を出すなど):約10%
- 厳しくない企業(志望度によらず基準を満たせば内定を出す):約50%
【それぞれのタイプの採用課題における選考プロセスの設計の仕方】
採用目標人数に対してエントリー数が多く、優秀層が見つけにくい企業
<採用課題>
- 優秀層を精度高く、早期に見つけてフォローする
- 大勢の応募者へ効率的に対応する
<選考プロセスの設計方針>
- 説明会は大規模会場で行うことで、回数を減らし、採用側の負担を下げる
- 適性検査の合格基準を厳しめにし、後工程の選考負担を下げる
- 面接などは早期から面接官・会場を確保し、特に優秀層が多い選考初期段階は一気に対応する(選考のリードタイムが伸びると優秀層から辞退することが多いため)
- 選考過程で優秀層を発見した場合は、選考回数を減らすなどの飛び級的プロセスを用意し、選考のスピードアップを図る
採用目標人数に対してエントリー数が少なく、候補者集団形成が難しい企業①
<採用課題>
- エントリー者や受験者を増やす
- 選考途中の辞退者を減らす
<選考プロセスの設計方針>
- 説明会の階数を増やし、学生が参加しやすいようにする。また、説明会参加は必須とせずに、不参加の学生も選考へ進めるようにする
- エントリーシートなどの学生の負担を上げるものはなくすか、軽くする
- 適性検査などの合格基準を緩くし、できるだけ多くの学生と会うようにする(社員と直接会うことが魅力づけになるため)
- 早期受験者は早めに選考プロセスを開始するなど、五月雨式・同時並行的に複数の受験者の選考プロセスを進めるようにする
採用目標人数に対してエントリー数が少なく、候補者集団形成が難しい企業②
<採用課題>
- できるだけ少ない人数・期間で採用を行いたい
<選考プロセスの設計方針>
- 少ないエントリー者数でも受験者は多くなるように、軽めのエントリーシートや説明会参加は自由にし、選考参加のハードルを下げる
- 架電などを行い、少ないエントリー者数でも受験率を高くする
- 大学のキャリアセンターやOB訪問を行い、応募チャネルや接触をもつ
- 通年採用にし候補者に応じて柔軟に選考を進めたり、大手や人気企業の採用ピーク直後から採用を開始する
採用人数が少ないため、効率的に採用活動を行いたい企業
<採用課題>
- 採用人数に対してエントリーが多いため、効率的に優秀層を絞り込みたい
- 本気度の高い応募者のみに受験してほしい(あまり不合格を出したくない)
<選考プロセスの設計方針>
- 説明会は採用HPや動画配信にするか、大規模会場で行い、採用側の負担を下げる
- 本気度の高い応募者に受験してもらうために、重めのエントリーシートにしたり、説明会参加を必須にするなど、ハードルを高く設定する
- 選考プロセスは、五月雨式に行うのではなく、1ステップごとに全員が受験を終わり次第、次ステップを案内する(五月雨式だと、初期と後半の応募者を比較できず、選考基準がブレる可能性があるため)
評価項目と基準の設計
採用活動において、評価項目と基準の設計は、候補者の適性を的確に判断し、採用の精度を高めるために欠かせません。選考の一貫性と公平性を確保するためにも、評価項目を設計する際は「使う言葉を一義的にする(一つの意味でしか受け取れないようにする)」ことが重要です。例えば、評価項目でよく使われる「コミュニケーション力」という言葉でも「論理的である」「社交的である」「表現力が豊か」など、評価する人によって意味合いが変わります。判断基準がバラバラな状態では、判断の精度も落ち、入社後のミスマッチなどのリスクへつながる可能性もあるため、全員で認識を揃えることが必要です。
また、「採用の必須要件は最小限に絞る」ことも重要です。採用基準を厳しくすると優秀な人材が採用できるという見解もありますが、採用基準を厳し目に設定すると、全ての要件を満たす候補者が少なくなり、採用数の減少や、実際には優秀な人材を見逃す可能性もでてきます。そのため、入社後に人事施策の中で育成していける要素がある場合は、評価基準からそぎ落とすとよいでしょう。
フォローのためのコミュニケーション方針の設計
フォローのためのコミュニケーション方針を設計する際は、まずターゲットとなるペルソナがどんなことに魅力や不安を感じそうかを見立てます。その上で、企業の具体的な強みや特徴を整理し、それをどのように伝えるかを事前に準備しておくとよいでしょう。例えば、「成長機会」を訴求するのであれば、実際のキャリアアップ事例や研修制度の実績を示し、「安定性」を訴求する場合は、市場シェアなどのデータを活用するなどです。また、採用担当者間で事前に情報をすり合わせておくことで、一貫性のあるフォローが可能になります。
面接の質を向上させる
採用活動において、面接の質は応募者の評価精度や採用の成功率を大きく左右します。適切な質問ができていない、評価基準が曖昧などの課題があると、優秀な人材を見逃したり、ミスマッチが発生する原因にもなります。そのため、より精度の高い選考を実施するために、面接官のスキル向上や評価の一貫性を重視しなくてはなりません。
面接官トレーニングを行い見極め精度を高める
選考プロセスにおいて「面接選考」は候補者を見極める最も重要なコンテンツですが、採用の専門知識を持たない管理職や現場社員が面接を担当するケースは少なくありません。その結果、評価基準のばらつきや質問スキルの不足などにより、優秀な候補者を見逃したり、ミスマッチが生じたりするリスクがあります。これを防ぐためには、面接官トレーニングを実施し、評価の一貫性を保ちながら、見極め精度を高めることが重要です。具体的には、面接の目的や評価基準の理解、適切な質問方法、バイアスを排除した判断スキルの習得などが求められます。
弊社では、面接官のスキル向上を支援するトレーニングプログラムを提供しています。面接の「インタビュー・アセスメント・ジャッジ・フォロー」を体系的に学べる座学から、実際の面接に同席しフィードバックを行う実践型サービスまで、多彩なプログラムを用意しています。詳細は以下のリンクよりご覧ください。
採用戦略 実行編
採用戦略を立てた後は、効果的に実行することが重要です。計画通りに進めるためには、選考プロセスの設計や面接官のトレーニング、候補者へのフォロー強化など、具体的な施策が求められます。特に、戦略と現場の実行がずれると、優秀な人材を獲得できない可能性が高まるため、ここでは、採用戦略を確実に実行し、成果につなげるためのポイントを解説します。
優秀層から順番に採用するために
競争の激しい市場で優秀層から採用していくためには、優れた候補者を見極めるなど、戦略的に採用を進めていくことが重要です。ここでは優秀層を効果的に採用するためのポイントについて解説します。
合格率を採用活動時期ごとに設定する
採用では、自社の求める人物像や優秀さのマッチ度を基準に判断できればよいのですが、選考の時期によって候補者をリアルタイムに比較できない「時期ずれ」が生じ、適切な判断が難しくなることがあります。例えば、採用初期に応募した候補者はすでに選考を終えている一方で、中後期に応募した候補者はまだ選考中といった状況です。 この問題への対策として押さえておくべきポイントは「新卒・中途問わず、ほとんどの採用において、初期応募者のほうが優秀層であることが多く、内定率も高い」ということです。そのため、選考全体の合格率を40%に設定した場合、初期は60%、中期は40%、後期は20%といった具合で合格率を設定することで、より優秀な人材を確保し、ミスマッチを防ぐことが可能になります。
採用可能数を予測する
優秀な学生は複数の企業から内定を獲得しているため、内定を出しても辞退される確率が高くなります。そのため「内定数(内定を出した数)」と「採用可能数(入社を決めた数)」は分けて考えることが重要です。
採用可能数は、最終面接の1つ前の面接合格者数をベースに算出することで、より高い精度で予測が可能になります。採用可能数の式は下記の通りです。
(最終面接直前の合格者数 + その後の発生予測数)× 内定受諾割合の予測 = 採用可能数
この計算で算出された採用目標数に応じて、適切に調整・対応していくことが大切です。採用可能数が採用目標数に達していない場合は、内定出しの基準を緩和する、採用目標数を見直すとよいでしょう。一方で、採用目標数を超えている場合は内定出しの基準を厳格化し、より優秀な層を確実に確保できるようにする必要があります。このように、採用担当者はリアルタイムで採用可能数を把握することで、優秀な人材を確保することができます。
内定者フォローの時間を確保する
採用活動は、優秀な候補者に内定を出して終わりではありません。その後のフォローアップが、最終的な入社につながるかどうかを左右します。そのため、人事担当者は「優秀層へのフォローに一番多く時間を割いている(内定者と親密な関係を築いている)」状態を作ることが大切です。ここでは、フォローの時間を確保するための選考プロセスの工夫やポイントをご紹介します。
適性検査の利用
選考の初期段階で適性検査を導入することで、合格率をコントロールしやすくなり、面接にかかるマンパワーを削減できます。適性検査は受験者の人数に応じてコストがかかりますが、面接よりも評価のばらつきが少なく、候補者の能力やパーソナリティを安定して見極めることができます。
アウトソーシングの活用
一次選考などの初期選考では、基本的な能力を評価しますが、基礎的なスキルが確認できれば、見るべきポイントはどの企業でも大きく変わりません。そのため、一般的な基準での評価であれば、採用のアウトソーシングを活用するのも有効な手法です。アウトソーシング会社は多様な企業の採用を担当しており、業界全体の人材市場についての理解が深いため、こうした視点が選考に役立つこともあります。
セルフスクリーニングの促進
PULL型プロモーションを活用した採用では、多くの候補者にアプローチができる一方で、応募が集まりすぎると、説明会や選考回数などが増え、採用活動が非効率になる可能性があります。これを防ぐために「自社が求めている人材だけを集める」ことに注力しなければなりません。仕事のリアルな実情を伝える「RJP(Realistic Job Preview)」を実施し、候補者自身が「この会社は自分には合わない」と判断できるようにすることが有効です。そのために、「どのような人に来てほしいのか」を明確にし、それに基づいた採用広告やキャッチコピーを作成するとよいでしょう。
現場や管理職への協力依頼
効果的・効率的に採用を進めるためには、採用担当者だけでなく、管理職や現場社員にもフォローや面接に協力してもらうことが重要です。
フォローでは、現場の生の情報を伝えることで、候補者の納得感を高め、入社意向の向上にもつながります。
面接では、担当者の数を絞り、役割を明確にすることがポイントです。確率論の大数の法則というものがあります。6回だけサイコロを振っても1から6の数字が等分に出るかは分かりませんが、1万回サイコロを振れば大体6分の1ずつ出ます。これが、採用の場合も当てはまると思っています。
1人の面接官が4人ずつ見る場合ですと、その4人が全員自社には合わないというケースもあり、逆に全員良いというケースもあります。ところがほとんどの人間は人間を相対的にしか評価できません。もしも「半分くらい合格にしてください」と面接担当者にガイダンスをしている場合、面接を行った4人のうち、本当は全員不合格にしたいところだが半分の2人を合格にする、逆に、4人ともすごく自社にとって良い人なので全員合格にしたいのに半分落としてしまう。こういう事が頻発する可能性が出てきてしまいます。また、面接官に対して「すべての基準を理解し、総合的に評価してください」と依頼するのではなく、面接に慣れていない現場社員でも判断しやすいよう、見るべきポイントを絞ることも効果的です。例えば、「初回面接では、話が論理的に伝わるかどうかを見てほしい」といった具体的な指示をすると、面接の質が安定しやすくなります。
内定者フォローを実施する
内定者フォローは、採用活動を成功させるための重要なステップです。特に優秀な人材は他社からも内定を受けていることが多いため、内定後も候補者との関係を維持し、入社の意欲を高めるためのコミュニケーションが必要となってきます。ここでは、内定者フォローの具体的なコツや方法について解説します。
フラットな姿勢と自己開示
本音で相談できるような関係性を築くためのポイントは「フラットな姿勢」と「自己開示」です。人は、何か意図を感じると身構えてしまうことがあるのと同じように、強引に口説き落とそうとするのはかえって逆効果です。あくまでも候補者を第一に、自社と他社のどちらが最適かを共に考えるフラットな姿勢でフォローを行いましょう。
また、候補者との信頼関係を築くためには自己開示も非常に効果的です。自分の価値観や失敗談、過去の経験を率直に伝えることで、候補者も安心して自分の考えや悩みを話せるようになります。さらに、人は自分と共通点がある人へ好感を抱く傾向があるため、候補者との間に共通点はないかを意識しながらフォローを行うと、候補者は自然に心を開きやすくなり、より本音でのコミュニケーションができる関係を構築することができます。
フォローにおいては事実よりも心理的事実が重要
採用中は候補者が過去にどんなことを行ってきたがという「客観的事実」が重要ですが、フォローにおいては仕事やキャリアに対する志向や価値観などの「心理的事実」を重視しなくてはなりません。なぜなら、内定者が「何を思っているのか(特に不安)」を知り、候補者の志向や価値観に合わせて適切なフォローを行うことで、入社意欲を醸成することに繋がるからです。
この「心理的事実」は「やる気の源泉」「キャリア志向」「自社に対するフックとネック」「強く影響を受けている人」の4つを聞き出すことが重要となります。以下、内定者フォローの際にぜひご活用ください。
心理的事実①:やる気の源泉(やる気がどこから湧いてくるのか)
日々のやる気がどこから来るのかを理解し、候補者のやる気の源泉に応じて、伝えるべき情報を事前に準備しておきましょう。
組織型
<特徴>
所属する組織の社会的地位や知名度、組織内の自分の地位や組織自体の成長からやる気をもらうタイプ
<対策>
・新聞や雑誌など社会的な認知を示す資料や表彰されたものを示す
・実力主義で若くして裁量権を持てる事実を伝える
仕事型
<特徴>
日々行う仕事の面白さやその仕事で能力を発揮できるこによってやる気が左右されるタイプ
<対策>
・実際に仕事で使う企画書を見せる
・インターンシップなどで仕事を体験してもらう
職場型
<特徴>
職場の仲間や雰囲気との相性でやる気が左右されるタイプ
<対策>
・候補者と相性のよさそうな社員と会う機会を設ける
・会社の行事やイベントへ招待する
生活型
<特徴>
「その会社に入ることで生活がどのようによくなるか」がやる気を左右するタイプ
<対策>
給与水準やワークライフバランス(休日数や福利厚生)などを伝える
心理的事実②:キャリア志向
やる気の源泉が短期的なものだとしたら、キャリア志向は長期的なエネルギー源です。ここではアメリカの組織心理学者シャインの提唱した「キャリアアンカー(キャリアで大事にする価値観や考え方)」をお伝えします。
- 専門能力志向:自分の専門性や技術が高まること
- 経営管理志向:組織内で責任のある役割を担当すること
- 自律(立)志向:自分で独立すること
- 安定志向:安定的に1つの組織に属すること
- 起業家志向:クリエイティブに新しいものを生み出すこと
- 社会貢献志向:他社に奉仕したり、社会を良くしたりすること
- チャレンジ志向:解決困難な課題に挑むこと
- 調和志向:個人的欲求と家族・仕事のバランスを調整すること
心理的事実③:自社に対するフックとネック
内定受諾前に確認しておくべきこととして「フック」と「ネック」があります。事前に確認をしておかないと誤った認識で入社することとなり早期辞退を招く可能性もあるため、この2つを事前に聞き取ることが大切です。
- フック:候補者が自社に対して魅力に感じている要素
- ネック:候補者が自社に対して不安を抱いている要素
また、候補者の「ネック」が事実でない場合は具体的にかつ定量的に説明をしましょう。事実であれば、「トレードオフ」もしくは「認識しており対策中」であることを伝えることで、不安要素を払拭するよう努めましょう。
例として、よく挙げられる自社への不安とそれに対する対策は下記のようなものがあります。
不安:同業他社と比べると給与が低いのではないか
対策(トレードオフ):「給与水準は業界平均より低めだが、最新鋭の設備を整えており、業務の生産性を高められる環境があり、残業時間が低く抑えられている」
不安:退職者が多く社内の雰囲気が悪いのではないか
対策(認識×対策):「過去に離職率が高かった時期はあったが、現在は柔軟な勤務制度やメンター制度を導入し、働きやすい環境づくりを進めた結果、離職率は改善している」
心理的事実④:強く影響を受けている人
内定者が入社先を決める際、本人の意志だけでなく、家族や友人、恩師など周囲の人々の意見や価値観が大きな影響を与えることがよくあります。そのため、内定者に対して「入社について、誰かと相談しているか」「自社や他社についてどのように言っているか」を確認しましょう。内定者へ強い影響を与える人の価値観や志向を把握し、それに沿った情報を提供することで、結果的に入社を後押ししてくれる可能性があります。
意思決定スタイルごとにアプローチを変える
意思決定スタイルとは、何かを決める際に「多くの情報を集めるか、少ない情報で決めるか」「すぐに決断を下すか、選択肢を並べて長考するか」の2軸を基に、大きく「論理型」「統合型」「決断型」「柔軟型」の4タイプ分けたものです。採用担当者は、候補者とのコミュニケーションの中で、どのように意思決定をするかを把握し、それに合ったアプローチを取ることが重要です。
論理型
<特徴>
・多くの情報を集め、論理的に分析して決断を下す
・筋の通った説明や矛盾のないストーリーを重視する
<対策>
提供する情報を事前にしっかり準備し、矛盾のないストーリーを伝えることで納得感を高める
統合型
<特徴>
多くの情報を集め、様々な可能性を吟味し、意思決定に時間がかかる
<対策>
・とにかく「待つ」。焦らせず、時間をかけてじっくり考えてもらうようにする
・放置ではなく、定期的に連絡をとり、様子を見ながら追加の情報を提供する
決断型
<特徴>
情報が少なくても、即断即決する
<対策>
駆け引きは不要。「ぜひ一緒に働きたい」とストレートに気持ちを伝えることで、スムーズな意思決定を促す
柔軟型
<特徴>
・考えすぎる傾向があり、決断に時間がかかる
・ネットなどの情報に左右されやすい
<対策>
事前に不安要素を取り除くため、良い情報だけでなく懸念点も先回りして伝える
実際にはすべての候補者を明確にこの4タイプに分類できるわけではありません。しかし、意思決定の傾向を理解し、それに合わせた対応をすることで、より効果的に入社への後押しができるようになります。
採用競合との対峙
基本的な方針は「対決回避」と「真っ向勝負」の二つ
人材獲得競争が激化する中、採用に悩む中小企業やベンチャー企業だけでなく、大企業においても、より採用ブランド力の高い企業への対策が求められています。そのための方針として、大手企業の採用活動と競合しないようにする「対決回避」と、大手企業の採用と正面から競争する「真っ向勝負」の2つの方針があります。 採用に十分なリソースを割ける場合は、両方を組み合わせることも可能ですが、限られたリソースの中で効率よく優秀な人材を確保するなら 「対決回避」 を選択するのが有効です。
「対決回避」を行う方法としては、大手企業の採用選考時期を避け、後ろ倒しで選考を実施するとよいでしょう。大手企業の選考が終わった後でも、まだ優秀な候補者が残っている可能性が高いからです。また、一度は他社の選考を優先して自社の説明会をキャンセルした人や途中辞退した人に対して、再度アプローチをするのも有効です。その際、メールではなく電話で直接連絡を取ることで、再エントリーにつなげやすくなります。
一方、「真っ向勝負」を選ぶ場合、最も重要なのはスピード感です。大手企業と競合した場合、選考プロセスを迅速に進め、できるだけ早く内定を出すことが求められます。競争が激しくなる前に優秀な人材を確保するためには、候補者とのコミュニケーションを密に取り、他社よりも一歩先に意思決定を促すことが重要です。万が一、大手企業の選考と重なりそうな場合には、電話で直接連絡を取り、選考日程を前倒しするなどの柔軟な対応を行うとよいでしょう。さらに、内定を出した後は、候補者が受ける企業を絞るよう促すことも有効です。早めに内定を出し、魅力的なオファーを提示することで、候補者が自社への入社を決断しやすくなります。
このように、採用競争を勝ち抜くためには、自社の状況やリソースに応じた適切な戦略を選択することが大切です。大手企業との競争を避ける「対決回避」を取るのか、それともスピードで勝負する「真っ向勝負」に挑むのかなど、自社に合った戦略を見極めることで、限られたリソースの中でも優秀な人材を確保することが可能になります。
データに基づく振り返り方法
振り返りを行う際には、まず「採用目標に対する進捗状況」を確認し、候補者集団の形成、選考通過率、内定承諾率などの各指標を数値で把握することが大切です。ここで意識したいのが「ファン採用になっていないか」という点です。ファン採用とは、選考当初から自社への志望度が高い候補者に偏った採用のことを指します。志望度が高いこと自体は悪くはありませんが、あまり志望度が高くない候補者のほうが、優秀である可能性が高い傾向があります。そのファン採用を防ぐためには「内定辞退率」と「リアル接触率」に注目して振り返ります。
「内定辞退率」は一般的に半分以上(約6割)といわれています。そのため、自社の内定辞退率がこれより低い場合、ファン採用に偏っている可能性があるので、辞退者がどの企業に流れたのか、競合はどこかを分析するとよいでしょう。
「リアル接触率」とはナビ媒体で登録した学生のうち、実際にリアル接触(説明会や適性検査、面接等に参加した)割合のことで、平均は3割程度とされています。そのため、3割を下回る場合は、プレエントリー者との接触が不十分で、学生側に何らかのハードルが生じている可能性があります。選考プロセスを再度見直し、負荷のかかる選考方法になっている場合は、選考ツールや方法を見直すとよいでしょう。
これらの指標をモニタリングしながら、学生にとってのハードルを分析・振り返ることで採用活動の改善につなげることができます。
PDCAサイクルを採用戦略に組み込む
採用を成功させるには、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を活用し、継続的に改善することが重要です。しかし、採用担当者は「今年の採用はうまくいった」と主観的に判断したり、「離脱率」や「内定辞退率」などの指標を正確に把握できていなかったりするケースが多く見られます。そのため、振り返りの際は、採用プロセス全体のどの部分で、どのくらいの候補者が離脱しているのかを数値で可視化することが大切です。
また、採用データは社外に共有されにくいため、業界の基準が分からず、昨年との比較だけで評価を終えてしまうケースも多く見られます。しかし、昨年より良い結果だったとしても、それが本当に最適な採用だったとは限りません。そこで、採用指標の平均値をもとにKPI(重要指標)を設定し、定期的にモニタリングすることが有効です。KPIを活用すれば、自社の採用活動のどこに課題があるのかを明確にし、改善につなげることができます。
次回採用戦略の改善案を作成する
採用活動の成果を高めるには、振り返りをもとに次回の改善策を具体化しましょう。特に、「どのプロセスで離脱が多かったか」「内定承諾率に影響を与えた要因は何か」など、データをもとに課題を特定し、解決策を検討することで、より効果的な採用戦略を立てることができます。
改善案を作成する際は、KPI(重要指標)の達成状況を振り返り、具体的なアクションに落とし込みます。たとえば、説明会の参加率が低かった場合は、集客施策の見直しを行う、選考途中の離脱率が高かった場合は、面接のプロセスや候補者とのコミュニケーションを改善するなど、課題ごとに打ち手を明確にします。
このように、採用戦略は一度決めたら終わりではなく、継続的に改善していくことが求められます。データに基づく振り返りと施策の調整を重ねながら、より効果的な採用活動を実現していきましょう。
採用戦略設計事例
採用戦略を成功させるには、企業ごとの課題を正しく把握し、適切な施策を設計することが重要です。例えば、候補者集団の形成強化、選考フローの改善、内定承諾率の向上など、採用の各フェーズにおいて工夫が求められます。ここでは、採用戦略の設計事例を紹介し、それぞれの課題や施策、導入後の効果について解説します。
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