本記事では、中小企業の新卒採用が難しくなっている背景を整理したうえで、知名度やブランド力に頼らず学生と接点を作る方法、選考中の意向形成、内定辞退を防ぐフォロー施策まで解説します。「ナビサイトに掲載しても応募が集まらない」「大手企業に学生を取られてしまう」「内定を出しても辞退される」といった課題を持つ企業様向けの記事です。
なぜ中小企業の新卒採用は「難しい」と言われるのか?
中小企業の新卒採用が「難しい」と言われる背景には、社会的なマクロ環境の変化から、就職活動の構造、そして企業が用いる採用手法のミスマッチまで、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
学生優位の売り手市場による採用難
まず、現在の需給バランスを客観的に見てみます。
リクルートワークス研究所の調査によると、2026年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とした大卒求人倍率は1.66倍を記録しています。求人倍率とは「求人数÷求職者数」で算出される指標であり、1.0倍を上回る1.66倍とは、学生一人に対して1.66件以上の求人が用意されている、売り手市場(学生優位の市場)であることを意味します。
では、次に従業員規模別で求人倍率を見てみます。
従業員規模が300名以上の企業の求人倍率が0.34〜1.43倍であるのに対し、300名未満の中小企業については8.98倍となっています。中小企業では熾烈な争いが繰り広げられていることがうかがえます。


そして、学生が選考に参加する企業数そのものも減少しています。就活みらい研究所「就活白書2025」によると、昨年度と比べて25卒ではプレエントリー社数や説明会参加社数、エントリーシート提出社数などは、前年比で減少しています。さらに少子化による人口の減少が拍車をかけて、学生側が複数の企業を比較検討することが当たり前の環境になっています。

大手志向により、学生に認知されにくい
従業員規模別の求人倍率からも分かる通り、学生の応募先が大企業へ集中する「一極集中」の構造も深刻です。学生は限られた短い就職活動期間の中で、数多ある企業から一社を選ばなければなりません。実際に入社してみないと、会社の実態が分からないという強い不安も常に抱えています。深く調べる余裕がない学生にとって、誰もが知る有名企業や大企業は、それだけで信頼の証となります。リスクを避けたい心理が働き、無名の優良企業を自ら探し出すよりも、安心感を求めて知名度の高い企業に応募が集中してしまうのです。
実際に、この大手志向は、企業の「採用充足率(計画に対する採用実績の割合)」に明確な差として現れています。リクルートワークス研究所の採用見通し調査によれば、従業員規模5,000人以上の大企業や1,000人〜4,999人の中堅企業では、充足率が前年より上昇しました。対照的に、従業員規模299人以下の中小企業においては充足率が低下しており、採用状況の差が広がっていることがわかります。

就活白書2026より、採用が計画通りに進まなかった要因について、大企業の主な要因は内定辞退とされていますが、中小企業の場合は応募者数の少なさと、母集団形成そのものに苦戦していることが分かります。つまり、中小企業はそもそも学生に認知されていない、あるいは応募先として選ばれにくいという構造的な課題が浮き彫りとなっています。

大企業と同じ「待ちの採用」になっている
大企業に比べて認知度が低い中小企業が、就職ナビサイトなどに求人広告を出して学生からの応募を待つ「オーディション型(PULL型)」の採用手法をとっていることも、新卒採用が難しい原因の一つです。オーディション型採用とは、就職ナビサイト(マイナビ、リクナビなど)のマスメディアに求人広告を出し、学生からの応募をひたすら待つ、いわば「待ちの採用」です。
この採用方法で人が集まるかどうかは、企業の知名度や人気に依存します。誰もが知る大企業や有名企業であれば、求人を出すだけでも一定数の学生から応募を集めやすいでしょう。 しかし、知名度の低い中小企業が同じ場所に求人を出しても、大企業の陰に完全に埋もれてしまい、学生に見つけてもらうことが難しい採用方法です。特に、メガ就職ナビがオープンする3月・4月は、学生の関心が大企業や人気企業に集中しやすい時期です。このタイミングで中小企業が母集団形成を試みても、学生からの反応が得られにくく、投入したリソースに見合う成果が出にくい可能性があります。大企業と同じタイミングで、中小企業が同じように待つ採用をしていては、優秀な学生に出会うことは難しいでしょう。
※ここでいう優秀な学生とは、学歴や見栄えのよい経験だけで判断される学生ではなく、自社の事業や職務で活躍する可能性が高い学生を指します。
中小企業が新卒採用で勝つための「攻めの採用」とは
では、どのような採用手法であれば、中小企業でも優秀な学生が獲得できるようになるのでしょうか。
母集団形成方法は大きく2種類ある
そもそも採用手法として、学生の母集団形成には大きく分けて2つのアプローチ方法があります。それは「PULL型プロモーション(オーディション型)」と「PUSH型プロモーション(スカウト型)」です。PULL型は先ほども述べた通り、就職ナビサイト(マイナビ、リクナビなど)や合同説明会などのマスメディアを使って求人情報を広く公開し、求職者からの応募を待つ、受け身の採用手法です。PUSH型は、企業側からターゲットを特定し、直接アプローチをかけて採用活動を行う能動的な手法です。スカウトメディアを通じた直接のメール送信や、社員・内定者の人脈を活用するリファラル採用などがこれに当たります。
| PULL型(オーディション型) | PUSH型(スカウト型) | |
|---|---|---|
| 定義 | 学生からの応募を待つ | 企業が学生に直接アプローチ |
| 主な手法 | 就職ナビサイト、合同説明会など | スカウトメディア、リファラル採用、OB・OG訪問など |
| アプローチ層 | 有名企業の場合は自社のファンが中心 無名企業は母集団形成が難しい | 有名企業は自社のファン以外にもアプローチできる 無名企業でも工夫次第で母集団形成につながる |
| 強み | 効率的に多くの人数(不特定多数)にアプローチすることができる | 求める人材にピンポイントでアプローチできる |
| 弱み | 応募者の数や質が、企業の知名度や業界の人気に左右されやすい | 学生に個別でアプローチするため、負荷が大きい |
| 辞退率について | 応募時点では志望度の高い層が多いため、選考途中の辞退率は比較的低い | スカウトでは、アプローチ時点で志望度が低い層が多いため、選考途中の辞退率は高くなりやすい ※リファラルでは、知人を介する紹介のため辞退率は低くなりやすい |
| 必要な工夫 | 応募が殺到する場合、「セルフスクリーニング」による効率化が必要 | 志望度が低い状態からスタートするため、きめ細かいフォローや面接官による動機形成が必要 |
PUSH型(スカウト型)への転換
PUSH型の採用の最大の利点は、知名度に依存せず、自社が望む人材へ直接リーチできることにあります。待ちの姿勢(PULL型)では、大企業がこぞって狙う競争の激しい「レッドオーシャン」で戦うことになり、苦戦が避けられません。一方、自ら探しに行けば、地方の学生や就職活動にまだ本腰を入れていない潜在層など、優秀でありながら他社と競合しない「ブルーオーシャン」の人材を発見できます。
スカウトでは想像力を働かせる
PUSH型のスカウト採用を成功させる要素の一つは、検索における「想像力」です。自社の求める人物像や採用基準に照らし、どのような人物であれば活躍できるかを具体的にペルソナとして描き出します。その上で、その人物が「どんなキーワードをプロフィールに書いているか」まで想像力を働かせて検索を行います。
■「冷静に対応できる人材」が求める人物像の場合
人物のイメージ :トラブルが起こっても冷静に対応できる人
関連する経験 :深夜帯のコンビニアルバイト、コールセンター業務など
検索キーワード例 :「深夜 コンビニ」「コールセンター」
■「論理的思考力が高い人材」が求める人物像の場合
人物のイメージ :論理的に物事を考えられる人
関連する特徴 :将棋・囲碁などが趣味、統計やプログラミングの学習経験がある
検索キーワード例 :「将棋」「囲碁」「統計」「プログラミング」
内定者のリファラルを活用する
リファラル採用も、企業が学生に直接アプローチできる有効な手法です。リファラル採用とは、英語の「referral(推薦・紹介)」に由来し、社員の人脈を通じて候補者を紹介してもらう採用手法です。内定者のリファラルでは、すでに内定を受諾している内定者の同級生で、まだ就職活動を続けている学生を紹介してもらいます。内定者からの紹介で新たな母集団形成を行うと同時に、内定者自身の帰属意識を高めて、内定辞退を防ぐ効果も期待できるでしょう。学生から紹介をもらうためには、採用担当者が内定者の所属するコミュニティを把握することが必要です。具体的には、ゼミ・サークル・アルバイト先などについてヒアリングし、コミュニティの中心人物(ハブ人材)を見つけ、ハブ人材からさらに広げるといった方法があります。
紹介を促す際には、紹介してくれる内定者の不安払拭と動機付けを必ず行いましょう。自分が入社する企業とは言っても、「大切な友人を紹介して大丈夫か」と紹介に不安を覚えるものです。学生の不安を解消するため、担当者は以下の対応を事前に約束することが求められます。
- 紹介してもらったら、何らかの形で必ず会う
- イベントなどに誘う際は、強要せず、事前に希望を聞く
- 会う際には、対等な立場で、相手からも質問してもらえるようにする
- 就職活動や面接などについての一般的な疑問にも応えるなど、相手にもメリットのあるサポートを行う
上記を事前に紹介者に約束し、紹介に関わる手間や心理的ハードルをなるべく下げることを心がけましょう。
リファラル採用についてさらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
「志望度」で評価するのをやめる
優秀な学生を採用したいと考えつつ、志望度を合否判断の中心にしていませんか?「志望度が低いから不合格」のように面接の評価を行う企業は少なくありませんが、この考え方は中小企業にとって最適とは言えません。そもそも、企業側からスカウトされて応募した場合では、選考初期の学生の志望度は、まだ高くないと考える方が自然です。また、優秀な学生ほど他社からも引く手あまたであり、様々な企業からアプローチを受けています。そのため、1社あたりの志望度が相対的に低くなるのは当然のことです。したがって、特に選考の初期段階で「うちへの熱意が足りない」と不合格にしてしまえば、採用の幅が狭まります。
志望度は、評価するものではなく、「企業が面談や対話を通じて高めるもの」と認識した上で、相手のことを理解した上で自社の魅力を提示し、惹きつける努力をすることが必要です。
では、面接のインタビューでは志望度ではなく、学生の何を見て判断すべきなのでしょうか。
中小企業がとるべき新卒採用における7つの戦略
これまでのところで、企業側から攻めることと、志望度は高めるものというスタンスの重要性について触れました。ここからは、中小企業が具体的にとるべき戦略について具体的に解説します。
①採用ターゲットの必須要件を絞り込み、ポテンシャルを見抜く
優秀な人材を得ようとするあまり、採用基準を盛り込みすぎることも採用を難しくする要因です。激化する採用市場で人材を確保するためには、条件を増やさずに絞り込む意識が必要です。
採用基準を見直す
経営陣や現場の希望する要件をすべて詰め込み、上述のように「必須要件(マスト条件)」を増やしすぎてしまう企業は少なくありません。しかし、条件を厳しくすればするほどターゲットは狭まり、本来出会えるはずの優秀な人材をみすみす逃すことになります。本当に必要な人材を確保するには、採用基準を「入社時に最低限持っていなければならない要素」のみに、極限まで絞り込むことが不可欠です。専門知識やビジネスマナーなど、入社後の教育で身につけられるスキルは思い切って採用基準から外し、「育成目標」へと切り替えましょう。「今できること」ではなく「将来の伸び代」に目を向けることが、母集団形成を成功させる第一歩となります。
見抜く
次は、絞り込んだ基準をもとに、学生のポテンシャルを見抜く面接方法についてです。面接で外せない鉄則は、候補者の「考えていること(主観)」ではなく、「やってきたこと(事実)」に焦点を当てることです。特に志望動機やキャリアイメージ等は、建前や思い込みが含まれやすいため、評価の決め手としては不適切といえます。そこで、過去の経験について「どのような困難があり、どう考え、具体的にどう動いて結果を出したのか」という具体的なエピソードを徹底的に深掘りしましょう。深掘りの際、STAR+T2面接を心がけることで、候補者の問題解決能力や思考、行動特性を見極めることができます。もし学生側に魅力的なガクチカ(学生時代に力を入れたこと)がなくても、日々の授業への取り組み方や学びの姿勢から、思考や行動特性を探ることはできます。経験の派手さに囚われず、その人の過去の行動事実から人物見立てを行いましょう。
ただし、STAR+T2面接は質問項目を用意するだけで実践できるものではありません。候補者の回答をどこまで、どのように深掘りするかには、一定の訓練が必要です。そのため、面接官によって情報収集量や評価の精度に大きなばらつきがでないように、定期的に面接官トレーニングを実施するといいでしょう。
さらに、ワークサンプル、能力検査、適性検査などを組み合わせることで、より精度の高い見極めが可能になります。もっと詳しく採用基準設計から選考設計について知りたい方はこちらをご覧ください。
②大企業が狙わない「ブルーオーシャン」を攻める
中小企業が攻めるべきターゲットは、大企業が目を向けていない未開拓市場「ブルーオーシャン」です。ブルーオーシャンの人材は、決して能力が低いわけではありません。例えば、地方大学の学生、文学部や教育学部などのリベラルアーツ系、高専生、既卒者や第二新卒など、大企業の画一的な採用基準から外れているだけで、高いポテンシャルを秘めた人材は数多く存在します。また、部活や研究に没頭していて就職活動への意識がまだ低い層や、大企業の採用ピークが過ぎた時期(5月〜6月以降)に就職活動を続けている層も絶好のターゲットとなります。
- 地方大学の学生
大都市圏の学生と比べて、得られる就活情報が少なかったり、情報に触れるタイミングが遅かったりするため、大企業との競合が起こりにくい層です。
- 法学部・経済学部以外の文系学生や、文系の大学院生
文学部や教育学部などのリベラルアーツ系の学生は、企業からのアプローチ(ダイレクトメールやパンフレットなど)が相対的に少なく、手薄になりやすいターゲットです。
- 研究に没頭している理系学生や高専生
理系の大学院生や高等専門学校(高専)の学生などは、自身の研究や専門分野に集中しているため、就活市場に現れにくい傾向があります。
- 部活やサークルに熱中している学生(就活意識低い系)
体育会系の部活などに全力で打ち込んでいるため、就職活動に本腰を入れるのが遅れてしまった学生です。就活軸や言語化が、就活全力の学生に比べると見劣りしますが、就活への意識が薄いだけで、高い集中力やポテンシャルを秘めています。
- 既卒者や第二新卒
新卒一括採用の枠組みからは外れてしまっていますが、優秀な人材が多く眠っている市場です。
- 大手企業の採用の波が過ぎた後(5〜6月以降)に就活している学生
大企業の選考に漏れてしまったものの、実は優秀な学生が含まれている時期であり、競合が少ない層です。(以下表参考)

こうしたブルーオーシャンの人材を獲得するには、企業側から直接アプローチするPUSH型の採用が求められます。例えば、スカウトメディアに現れにくい、そもそも就活意欲が低い層については、前述した内定者のリファラル採用などの活用が有効です。
また、特定の属性に特化したエージェントやスカウト媒体も検討してみましょう。例えばニッチな学生をターゲットとしている人材紹介として、音大生特化型のミュジキャリ、エンジニア志望特化のサポーターズ、体育会系に強いスポーツフォースなどがあります。自社の採用ターゲットに合わせて、特化型の紹介会社やスカウト媒体を比較検討することをおすすめします。
③未接触者の掘り起こしと大学訪問で接点を構築
上述の通り、大手選考が落ち着く5月以降は選考中の学生が減るため母集団形成が難しくなりやすい時期です。時期ズレを狙いつつ、アプローチ対象や手法を工夫することで、さらに新たな学生層と出会いやすくなります。その作戦を2つ、ご紹介します。
■未接触だった層への再アプローチ
1つ目は、選考に参加していない、未接触の学生を掘り起こす方法です。具体的には、就活初期にエントリーはしてくれたものの、会社説明会や選考には参加しなかった学生、説明会や面接に予約はしたが、ドタキャンや辞退等で接触していない学生、などが対象です。当時はリアクションが薄かった学生も、就職活動がうまくいっていない場合、再アプローチ時には反応が変わり、選考に進んでくれる可能性があります。そのため、大企業の採用波が去った5月以降のタイミングで、企業側から直接電話やメッセージなどで「改めて、当社の選考を受けてみませんか」とアプローチをかけるのです。
大企業の選考がうまくいかず、不安や焦りを感じている学生にとって、自分を必要としてわざわざ声をかけてくれた企業に対しては、「自分を認めてくれた」と、前向きに面接に足を運んでくれるかもしれません。
■大学まわり作戦
2つ目は、大学4年生の5月〜6月以降に大学のキャリアセンターを訪問し、「面接では魅力が伝わりにくいものの、能力やポテンシャルを持つ学生」を紹介してもらう方法です。なぜ、この遅い時期にキャリアセンターを訪問するべきなのでしょうか。それは、就職活動の後半戦になると、キャリアセンターの支援目標が「有名企業への就職」から、とにかく一人でも多くの学生の就職先を決める「内定率の向上」へと変化するからです。
学生の中には、本当は能力が高いにもかかわらず、面接での自己アピールやコミュニケーションが苦手なために、大手企業の選考に落ち続けている学生がいます。キャリアセンターの担当者は、日々の面談を通じて「面接では魅力が伝わりにくいものの、能力やポテンシャルを持つ学生」を把握している可能性があります。そういった学生を紹介してもらい、ポテンシャルを見抜くことができれば、自社にとっての大きな戦力となるでしょう。
さらに、この時期にキャリアセンターを訪問するメリットは、今年度の採用にとどまりません。キャリアセンターが内定率の向上に苦心しているこの時期に、内定を持たない学生の受け皿となることで、担当者との間に良い関係を築くことができます。この時期にキャリアセンターの支援につながる関係を築いておけば 、「あの時助けてくれた企業だ」と認識され、来期の採用シーズンにおいて、優先的に学生を紹介してもらうなど配慮してくれる可能性も高まります。次年度以降の採用活動への布石ともなるかもしれません。
④応募の心理的ハードルを極限まで下げる
さらに、選考フローにおける「応募のしやすさ(ハードルの低さ)」にも注意を向けましょう。多くの企業では、面接前に会社説明会への参加やエントリーシート(ES)の提出を必須としています。こうした手順は本当に必要でしょうか。選考受検ハードルの高さは、優秀な人材の離脱(機会損失)を招いている可能性があります。まずは学生との接点を確保するためにも、応募ハードルは可能な限り引き下げる工夫が求められます。
エントリ-シート(ES)の廃止
作成に時間を要するエントリーシート(ES)や履歴書の提出も、学生の大きな負担となります。何十社も受ける学生が、志望度の高くない知名度が高くない企業のために、手間のかかる書類を作成する意欲は高まりにくいでしょう。
加えて、就職白書2026によると、生成AIをESや自己PRで利用する学生が63.3%と多くの学生が利用している状況です。もはや、提出された文章だけで学生の能力を測ることは困難になったのが実情です。とはいえ、事前の情報が全くない状態での面接に不安を感じる採用担当者の方も多いでしょう。そこで、ESの代替方法として簡易的なアンケートの利用や、動画提出などが活用されています。

ロート製薬:https://www.rohto.co.jp/news/release/2025/1215_01
日立製作所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC106CV0Q3A310C2000000/
横浜銀行:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB054740V00C24A4000000/
受け皿企画の実施
選考要素を排除した受け皿企画を置くことでも、応募のハードルを下げられます。具体的な内容として、評価や選考を行わずにお互いの情報を共有する「カジュアル面談」や、適性検査のフィードバックや自己分析支援等を行う「就活支援コンテンツ」などがあります。こうした企画は、学生が「選考に関係ないんだ」と安心感を得やすいため、プレエントリー層や選考への参加を迷っている学生が気軽に足を運んでくれるでしょう。
さらに、学生個人に寄り添う支援を通じて「この企業は自分のことを考えてくれている」という信頼関係が築かれ、志望度を高めるフックとなります。
⑤社長と現場のエースを巻き込んで採用する
また、優秀な人材を採用するためには、人事任せの運用ではなく社長や周囲の社員も巻き込んで取り組むことが理想的な形です。
社長が採用の先頭に立つ
そもそも候補者を選考に進めるにあたり、面接や座談会での現場社員の協力が欠かせません。しかし、人事部からの依頼だけでは現場を動かしきれず、非協力的な態度をとられてしまうケースも少なくないでしょう。特に、余裕がない現場ほど「即戦力」という過剰な条件を採用担当に突きつけがちです。現場と採用市場の板挟みになった結果として、当たり障りのない無難な採用で妥協してしまうという悪循環も生まれています。
この膠着状態を打破できる存在が、社長です。社長自らが「人事に協力し、会社の業績を伸ばす」と宣言したとしましょう。そうすることで現場社員からの協力をスムーズに得られるようになります。また、社長が旗振り役を務めることで、採用後の「なぜこんな人を採ったのか」という現場からの不満を封じ、社員一人ひとりに「自分たちが新しい仲間を育てるのだ」という当事者意識を持たせやすくなります。
エース社員の力を借りて志望度を高める
優秀な学生の心をつかむため、現場のリアリティを魅力的に伝える際はエース社員に協力してもらいましょう。採用担当者だけで魅力を伝えようとすると、仕事内容や成長実感が抽象的になりがちです。社内で活躍しているエース社員を学生に引き合わせ、現場の醍醐味や成長の軌跡を本人の言葉で語ってもらいます。学生が「自分もこんな活躍をしたい」「こんな魅力的な社員と一緒に働きたい」と感じられれば、入社意欲は高まりやすくなります。
さらに、学生の性格や価値観を見極め、相性の良い社員を「個別リクルーター」としてアサインすることも良い方法です。リクルーターが学生へ個別にフォローを行うことで、「自分を特別に見てくれている」といった安心感を醸成できます。とはいえ、社員が多忙で時間を割けないというケースも多いはずです。その場合は、1次面接合格後からリクルーターが伴走し、要所で社長やエース社員が登場する座談会を設定するなど役割分担を明確にすることで、社員のリソースを効率的に割き、かつ学生への魅力付けがしやすい体制が整います。
⑥内定辞退率をKPIにしない
「内定辞退者は少ないほうがいい」と採用担当者なら誰もが思うでしょう。しかし、内定辞退率の低さを追い求めるあまり、実は組織の成長を止めている可能性があります。
内定辞退率を下げても優秀な人材は確保できない
そもそも新卒の内定辞退率は企業によって差があり、10%〜60%程度まで幅があります。10%の場合、第一志望の学生にしか内定を出さない企業だと読み取れますし、60%の場合は、基準を満たせば志望度によらず内定を出す企業と分かります。内定辞退率を下げること自体は、決して難しくありません。10%の企業のように、自社の熱烈なファンだけに絞って内定を出したり、手書き履歴書のような「踏み絵」を課して志望度の低い学生を事前に排除したりすれば、数字は改善するでしょう。
ただし、内定辞退率は低ければ低いほど良いわけではありません。内定辞退率を下げても、自社のブランド力を超えるような優秀層を獲得することは難しいです。重要なのは、辞退を恐れて学生を絞ることではなく、「逃したくない優秀層」がなぜ自社を選ばなかったのか理由を探ることです。
内定辞退率ではなく辞退理由を分析しよう
そもそも、自社より知名度や条件が上の大企業など強い相手と同じパイを奪い合う「攻めの採用」を実践すれば、辞退率が高くなるのは必然です。むしろ、辞退率の高さは「現在の自社の採用ブランドだけでは出会いにくい層へアプローチできている証拠」として、ポジティブに捉えるべきです。
ここですべきことは、辞退率という表面的な数字に注目することではなく、どの企業と競合して、なぜ負けたのかという「中身」を分析することです。自社と同レベルの企業に負けたのなら改善が必要ですが、業界トップ企業や異業種の大手企業に負けたのであれば、採用活動のターゲット設定とアプローチは間違っていません。辞退を恐れず、常に格上のターゲットを狙い続けることこそが、組織の採用力を高めます。
内定辞退の原因やその対策など、詳しくはこちらの内定辞退率に関する記事をご確認ください。
⑦選考中から内定後まで一貫したフォロー戦略を実行する
中小企業が攻める武器は、選考中から内定後まで一貫した「フォロー戦略」にもあります。知名度に頼らず、学生の心を動かすための手法を紹介します。
選考中フォローで候補者の意向度を育てる
知名度に乏しい中小企業が「攻めの採用」で出会う優秀な学生は、最初から自社を志望しているわけではありません。「志望度で評価する」のではなく、選考を通じて「学生の志望度を育てる」ことが必須です。この意向形成は、以下の3ステップで進めます。
- 信頼関係の構築
まずは「この人になら本音を話しても大丈夫だ」という心理的安全性を築きます。学生から話してもらうだけでなく、面接官が自己開示を行うことが鉄則です。面接官自身の入社動機や、過去の挫折、人生の転機といったライフヒストリー(生育史)を、自分の言葉で具体的に伝えましょう。会話の中で学生との共通点を見つけることも、信頼関係づくりに役立ちます。出身地や部活動、趣味など、相手が話しやすい接点を探しながら、フラットな立場でキャリア相談に乗る姿勢を心がけましょう。
- 情報収集
信頼が築けたら、学生の表面的な言葉の裏にある本音を探ります。具体的には、モチベーションの源泉や企業選びの軸を把握します。魅力(フック)だけでなく、不安要素(ネック)もすべて吐き出してもらうよう努めてください。
また、親やパートナーなど、本人の意思決定に影響を与える重要人物の存在や、その人がどのような懸念を抱いているかも併せて確認しておきましょう。
- 説得勧誘
収集した本音に合わせて、学生に伝えるべき情報を提供します。不安(ネック)に対しては、事実や数字を用いたカウンタートークで誤解を解き、良い面も悪い面も包み隠さず伝えるRJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)を徹底してください。仕事の魅力や面白さについては、学生個人に響きやすい情報を選んで伝えましょう。
さらにフォローについて詳しく知りたい方はこちらの採用アトラクトに関する記事をご覧ください。
内定ブルーを防ぎ、入社意欲を固める
内定受諾直後の学生は、「本当にこの決断で良かったのか」という強い不安(内定ブルー)に陥ってしまうことがあります。進路を一つの会社に決めて他の選択肢を捨てることは、その決断自体が、大きなストレスを伴う出来事だからです。注意したいのは、学生が「内定承諾の決断に不安を感じてしまう原因は、選んだ会社が微妙だからだ」と誤って考えてしまいがちなことです(社会心理学では原因の誤帰属と呼ばれています)。採用担当者は学生の不安を放置せず、入社意欲を固めるために以下のようなフォローが必要です。
- 会える口実を複数作る
入社までの間、月に1回程度の頻度で定期的に会う機会(会える口実)を設けましょう。10月の内定式など一度のイベントにすべてのコンテンツを詰め込むのではなく、研修や懇親会、社内手続きなどを段階的に実施します。これにより、一度にまとめて実施するよりも、単純接触効果が働きやすくなり、親近感や安心感を維持しやすくなります。また、高頻度で顔を合わせることで、内定者の不安な様子にいち早く気づき、個別フォローにつなげることも可能になります。 - 内定者イベントは「指定席」にする
内定者懇親会などを行う際、席を自由席にすると、たまたま相性の悪い相手と遭遇して「こんな人がいる会社で働くのか」と不信感を抱いてしまうリスクがあります。そういった事故を防ぐため、選考時の適性検査や、出身地・部活動・趣味などのプロフィール情報を活用しましょう。あえて価値観や性格が似ているメンバーで、指定席のグループを作ることで、安心して話せる場を作りやすくなります。 - 「入社動機」の共有で、魅力を再発見させる
人間関係が構築できていない初期の懇親会では、ただのフリートークでは盛り上がりにくいため、「互いの入社動機を共有する」コンテンツを用意します。初心を思い出してもらうと同時に、他の人の入社動機を知ることで「この人はこんな理由で会社を選んだのか」と自社の新たな魅力(フック)の引き出しが増え、内定ブルーの不安を徐々に薄めていく効果があります。 - RJPで「こんなはずはなかった」を防ぐ
先述の通り、RJPとは会社の魅力的な情報ばかりを伝えるのではなく、良いことも悪いことも包み隠さず、より現実に即した情報を入社前に伝える手法のことです。入社前に抱いていたイメージと入社後の実態に乖離があり、「こんなはずじゃなかった」と衝撃を受けることを「リアリティ・ショック」と呼びます。特に入社後3カ月以内にRJPを用いて現実を伝えておくことで、このリアリティ・ショックの度合いを下げ、早期離職を防ぐことができます。
中小企業が新卒採用を実施する際のよくある悩み
Q:地方企業でも応募を増やす方法はあるのか?
A:デジタルツールの活用と、地方学生へのピンポイントなアプローチが鍵となります。
マイナビキャリアリサーチLabの調査によれば、学生の半分以上は「地元で就職したい」と考えており、「地元ではない地方で働いてみたい」という学生も4割程度存在します。さらに、地方学生は競合が少ないブルーオーシャンであることが多いです。そのため、スカウト媒体で地方学生を狙い撃ちしたり、地元の大学や研究室へ自ら足を運び、直接パイプを築いたりすることで、応募数を増やしやすいです。地方だからと諦めるのではなく、積極的にアプローチしていくことが大切です。
また、デジタルツールの活用も必須です。Zoomなどを用いたWeb説明会や面接を実施し、全国の学生と時間・距離・費用の制約なく接点を持てるように環境を整えておきましょう。
Q:「第一志望ではない」と言われた学生の志望度をどう高めるか?
A:まず大前提として、優秀な人材ほど引く手あまたであるため、自社への志望度が低い(第一志望ではない)のは当たり前のことです。採用担当者は、①信頼構築、②情報収集、③説得勧誘のステップで、徐々に学生の志望度を高めていきましょう。
- 信頼関係の構築:入社動機や生育史などの自己開示を企業側から行い、フラットに相談できる信頼関係を築く
- 情報収集:学生の不安や本音を聞き出すことに加え、意思決定のキーマン(親やパートナーなど)を把握する
- 説得勧誘:引き出した本音に合わせ、カウンタートークで不安を解消したり、自社の情報を伝えて魅力を感じてもらう
Q:大企業を志望している学生には何をどう伝えたらいいの?
A:大企業と同じ土俵で「うちも安定している」「給料が良い」と訴求しても、見劣りしやすいのが現実です。そこで、「定義のシフト」によって、学生が重視している価値を別の角度から捉え直してみましょう。
例えとして、学生が「大きな仕事がしたいから大企業志望」と言った場合、「大きな仕事とは、金額の大きさではなく、若いうちから一から十まで全体を任されることではないか?」と問いかけ、自社の若手が裁量を持って活躍している事実を提示します。
また、学生が大企業を志望する背景には、親など身近な人の意見が影響しているケースがあります。そのため、そうした相手にも安心してもらえるよう、自社の財務指標やメディア掲載実績など客観的な実績を学生に渡し、間接的に理解を得られるようにすることが効果的です。
学生と話をする際、他社を批判する伝え方は逆効果になりやすいため、避けたほうがよいです。自社と他社を直接比較するのではなく、候補者が受けている他社同士(A社とB社など)を比較し整理するようにしましょう。そうすることで候補者が企業選びで大切にしている軸(価値観)が自然と浮かび上がり、その価値観が自社とどのようにフィットしているかを確認し合うことができます。
Q:自社の魅力が分からない
A:企業に絶対的な強みや弱みはなく、あるのは特徴の捉え方です。
例えば「変化が激しくバタバタしている」という特徴は、安定志向の人にはマイナスですが、早く成長したい人には魅力になります。このように、相手の価値観(モチベーションの源泉など)を見極めて、それに合わせて自社の特徴が魅力として刺さるよう、伝えることを心がけましょう。
また、自社の魅力を語る際は、Webサイトに載っているようなビジネスモデルではなく、「その仕事が社会にどう役立っているか(社会的意義)」や「どんな知的好奇心が満たされるか」「どう成長できるか」など、より手触り感のある視点から具体的な内容を伝えてみてください。もし自社の強みが見えにくいなら、活躍中の社員に「なぜ入社したか」「何に手応えを感じているか」をインタビューし、リアルな魅力を聞き出してみましょう。
Q:スカウトではどんな内容を書けばいいの?
A:「あなただけを見ている」という特別感と、スカウト承諾のしやすさがポイントです。定型文の一斉送信は避け、以下の要点を盛り込みましょう。
- 特別感:プロフィールを読み込み、一文でも構わないのでなぜあなたに声をかけたのかを伝えます。(「アルバイトで~したエピソードを拝見し、~だと感じました」など)
- 参加ハードルの引き下げ:「まずはオンラインで」や「一度お話ししませんか?」など、気軽な情報交換を提案します。
- 安心感:自社のミッションを伝えたり、会社の雰囲気がわかるSNSアカウントやテックブログなどのURLを添えて、事前に内情を知ってもらう工夫をすると、見ず知らずの会社に対する警戒心を解くことができます。
上記内容を盛り込んだスカウトを、学生の就職活動への関心が高まっている時期(スカウト媒体に登録・ログインしたばかりのタイミング、授業前後の時間など)を狙って送付しましょう。
まとめ
圧倒的な売り手市場の中、大企業と同じ「待ちの採用」を続けていても、中小企業が優秀な学生に出会うことはやはり難しいです。大企業が狙わない「ブルーオーシャン」を開拓し、社長やエース社員を巻き込んで学生と本気で向き合い、志望度を高める。この「攻めの採用」へのパラダイムシフトこそが、自社の未来を支える優秀な人材の獲得につながります。
新卒採用に関するご相談や、具体的な支援については、ぜひ以下よりお問い合わせください。
この記事を共有する